2011年1月2日日曜日

第341冊 原りょう「私が殺した少女」

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  乱読! ドクショ突撃隊♪    第 341 冊
              
                       2011.1.2
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【1】読書感想 (第341冊)
  
原りょう  「私が殺した少女」  ハヤカワ文庫

直木賞とファルコン賞をW受賞した、原りょうの代表作にして傑作。
原りょうの「りょう」は、「寮」のウ冠を取った字体であり、文字化けし
そうなので使用しない。

題名から邪推すると、ロリコン犯人の悪徳小説のように思えていたが、
内容は全く違う。
沢崎探偵が依頼主宅を訪問すると、突然誘拐犯の共犯者として逮捕されて
しまう。
何がなんだか判らない展開はまるで自分が沢崎探偵になっている様に同化
させてゆく。警察署で取調べを受け、事情聴取を受けている頃には完全に
小説にのめり込んでしまっている。
依頼主の娘、天才ヴァイオリン少女が誘拐され、沢崎探偵は誘拐犯の一味
と誤解されていたのだ。
誘拐犯からの相次ぐ指令で、事態は少しづつ見えてくる。
この読めば読むほど見えてくる展開がたまらん、これは最高に傑作だ。

ハードボイルドの権化のような作品。
探偵の行動や思考・会話は一言一句おろそかに出来ない隠し味があり、
三十分で二十ページしか読み進められない。
四百数十ページの長編なので、時間を見つけては読み進めたが、完読まで
に一週間も掛かった。
でも、この一週間は本当に有意義だった。
面白い本を読んでいる期間は、本当に楽しい。

著者の第一作「そして夜は甦る」は良さが判らなくて、自分には合わない
作家なんだろうと本作(第二作)を長い間放置していたんだが、こうも
素晴らしい第二作に出会えた例はない。
第三作も素晴らしければ著者が本物だという事だし、そうでなければ本作
「私が殺した少女」が本物という事になろう。

四百数十ぺーじあるのだが、どのページも目が離せず、淡々とジリジリと
話は進む。予想外の展開が多く、ストーリーは探偵の勘がことごとく当た
るのが有利だが、警察捜査と探偵単独捜査の対比によって違和感とまで感
じさせないようにしている造りが美味い。
誘拐となれば家族や親戚が重要な登場人物なのだが、最初から「変だな」
と思う動きをしている人物がいる。
えてしてこういう人物の動きは最小限の描写に留められており、ここに目
星をつけて読み、最終的にもクローズアップされてしまったのは残念だが、
何度も事件が解決しそうになる造りなので、その都度「読みが間違ってた
のか?」と混乱できて楽しめた。

ハードボイルドものは東直己や黒川博行などで好きだが、本作で一層好き
になった。
こういう「早く読めば良かった」と思える傑作に、今年は何冊出会えるだ
ろう。



私が殺した少女 (ハヤカワ文庫JA)

双雲からの言霊

■今日の武田双雲からの言霊

百年じっと願うより、

今、一歩踏み出す。

今日も一日味わいつくしましょう。

週刊 お奨め本 第427号『引かれものでござい』

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週刊 お奨め本
2011年1月2日発行 第427号
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『引かれ者でござい』 志水辰夫
¥1,600+税 新潮社 2010/8/20発行
ISBN978-4-10-398606-5
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今年最初のオススメ本は、時代小説から。
そういえば2010年の最初のオススメも時代小説でしたね。?田郁の『八朔の雪
 みをつくし料理帖』。ここ数年、時代小説好きなんです(笑)。


さて、『引かれ者でござい』。
『つばくろ越え』の続編、蓬莱屋帳外控シリーズ二作目になりますが、前作を読
まずとも、本書からいきなり読んでも問題ありません。ありませんが、やっぱり
順番に読んだほうがわかりやすくはあります。


蓬莱屋は飛脚問屋。江戸から届け先までひとりで運ぶという「通し飛脚」を考案
して名を売った。ひとりで走りぬく健脚、預かり物を守り抜く信用、飛脚を務め
るのは誰でもよいというわけではない。
蓬莱屋の飛脚の面々がそれぞれの仕事を通して関わったさまざまな土地、事件、
人…。

三篇収録の短篇集。

表題作の「引かれ者でござい」は、尊皇攘夷を騙る悪党浪人連中から放蕩息子の
身代金を要求された多賀屋の使いで、三百両を運んできた鶴吉の話。
「旅は道連れ」では仕事を終えて急ぎ江戸へ帰ろうとする宇三郎が、大雨で氾濫
した川で足止めを食らい、迂回路を求め峠を越えようとしたところ、思わぬ道連
れができ…。
「観音街道」は、むかし蓬莱屋で勤めていた次郎吉をふたたび飛脚仕事に誘うた
めにやってきた治助が、藩に締め付けられる炭焼き衆の反乱に巻き込まれる。

江戸時代を舞台にした小説、という時代小説のくくりのなかで、飛脚である彼ら
は江戸から離れて、地方を走る(『つばくろ越え』のほうでは江戸を舞台の話も
あるのだが)。
町人ではない、武士でもない、本来圧倒的多数であるはずの、農村、山村に生き
る人びとの暮らしをリアルに描く。
百姓も、炭焼きも、浪人も、抜け目なく、したたかに生きている。
ずる賢く、狡猾に、精一杯に、できるかぎりの手を使い、知恵を使い。
虐げられる民衆という姿とは遠い、そのありよう。
新鮮!


そしてなにより魅力なのが、志水辰夫の文章である。
美文であるというのと違い、流麗であるとかそういうこともなくて、むしろハー
ドボイルドな文体であるのは、かつて「シミタツ節」と呼ばれていた頃と通ずる。


ここ数年、めっきり時代小説を読む機会が増えました。
私の年齢がそうさせるという部分も無きにしも非ずなのではありますが、実際、
時代小説に優秀な書き手が増えている気がします。
もちろん、時代小説以外の分野でも、優秀な新人はどんどん登場していて、ベテ
ラン作家も新作をどんどん発表していて、だからつまり、分野に限らず読みたい
本に追われて嬉しい悲鳴を上げ続けている今日この頃であります。

発行人はたぶん、普通の方々よりも読書に充てる時間が多くて、その分たくさん
読んでいて、だからこんなメルマガを出しちゃってるわけですが、当然のことな
がらそれでも個人が読める本の数なんて高が知れてます。ほぼ一日一冊、年400
冊ペースで読んでいるにもかかわらず、読むのに追いつかない新刊の数よ! 読
みたいのは新刊だけじゃないし!
もっともっと読みたい、あれも読みたい、これも読みたい。

私よりもっと読書タイムが限られていて、その分読む本を選びたいと思っている
だろう皆さんに、「この本読んでる時間に別の本読めばよかった、もったいなかっ
た!」という思いをしなくてすむよう、おもしろい本をオススメしていきたいと
思っています。
……その「おもしろい」の基準が、上手くマッチするといいんですけど(^^;ゞ。


発行人の独断と偏見のセレクトが、皆さまのお好みと多少なりとも合いますように!


『引かれ者でござい』 志水辰夫

2010年12月31日金曜日

第340冊 山本周五郎「さぶ」

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  乱読! ドクショ突撃隊♪    第 340 冊
              
                       2010.12.31
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【1】読書感想 (第340冊)
  
山本周五郎  「さぶ」  新潮文庫

学生の頃読んでいただろうと勝手に思い込んでいたが、今回読み始めてみ
て、すぐ未読だった事を悟った。

何をやってもドジでグズな「さぶ」と、対照的な「栄二」。
経師屋の住み込み奉公の二人は互いに励まし合いながら、というよりは、
栄二がさぶを励まし続ける形で修行期間が過ぎてゆく。
大体こういう始まりは、颯爽と上手く行っている方に不幸が訪れる。
本書も予想した通りだったのだが、その不幸が半端ない。
ここまで何もかもが裏目恨めに出てゆくと、後半でどう落とし前をつける
のか不安になってくる。
本書の最大の読み場はこの中盤で、鬼平ファンお馴染みの石川島の人足寄
場での描写は詳細を極め、刑務所実録でも読んでいるような充実ぶり。

ただし終盤の落ち着けどころ、これは少し説教臭い。
周五郎作品全体に言えるのが「説教臭さ」で、サラリと事象だけを淡々と
積み重ねて行った方が重みがあるのに、じわじわと気付かせようと書き重
ねてゆく重圧が重い。
また、栄二が人生転落してしまう原因が終盤で明らかにされるのだが、こ
の原因はとんでもない話。
すっかり人間の出来上がった栄二だから修まるのであって、そこまで人の
人生いじくれるものだろうか、と筋に納得がいかない。

小説としては中盤まで面白くて先が読みたいばかりに一気呵成に読み耽っ
てしまう。
それだけに終盤が、明らかにされてゆくストーリーに不満が残ってしまっ
た。



さぶ (新潮文庫)

双雲からの言霊

■今日の武田双雲からの言霊

ありがたい。

すべてがありがたい。

すべてが。

今日も一日味わいつくしましょう。

2010年12月30日木曜日

双雲からの言霊

■今日の武田双雲からの言霊

「損得」より

「心地いい」かどうかで判断する。


今日も一日味わいつくしましょう。

2010年12月29日水曜日

双雲からの言霊

■今日の武田双雲からの言霊

失わないとわからないのか。

その大切さが。

今日も一日味わいつくしましょう。

2010年12月28日火曜日

双雲からの言霊

■今日の武田双雲からの言霊

百人がつまらないという状況でも、

自分一人だけは楽しんでいたい。


今日も一日味わいつくしましょう。

2010年12月27日月曜日

本のご紹介です。スリー・カップス・オブ・ティー

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これであなたも読書通!話題の本をほぼ日刊でご紹介

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本日は ◆話題の小説系

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スリー・カップス・オブ・ティー  グレッグ・モーテンソン
¥ 1,995  サンクチュアリパプリッシング(2010/3/25)

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1993年、アメリカ人のグレッグ・モーテンソンはK2の登頂に失敗、
下山途中に山道に迷い、パキスタンの小さな村にたどり着いた。

グレッグは父の仕事の都合でアフリカで育った。妹は難病をわず
らっており、その影響もあって、成人した彼は看護師の資格を手
にしていた。

パキスタンの小さな村、コルフェ村で彼は村人に治療を授ける。
村人と心通じ合った彼は、村に学校がないことに愕然とする。小
さな子供たちが、霜の降りた地面に座り、そこに木切れで字を書
いていた。いたいけな姿が妹に重なって見えた。

「僕が学校を建てます」。彼はこう宣言して村を去った。

アメリカに戻り、グレッグは著名人に宛てた手紙を書き始めた。
500通余り出したがうまくいかず、行き詰ったところでヘルニ博士
という人の名前を知らされた。

ヘルニ博士はマイクロチップを開発した科学者である。同時に登
山家であった。気難しい人物だったが、支援を引き出すことに成
効。寄付された120万ドルを持って、グレッグは再びパキスタンへ。

ここから、私は少し笑ってしまった。グレッグは徒手空拳、何も
知らず、何も持たない。学校を建てるための資材を発注し、山道
を運ぶのだが、そのどたばたぶりと手際の悪さにははらはらさせ
られっぱなしだった。

なんとか、コルフェ村にたどり着いたグレッグ。しかし村人は、
学校よりも橋が必要なのだと彼に話した。コルフェ村と下の町を
つなぐのは一本のケーブルだけなのだ。これでは資材を運ぶこと
もできないと、グレッグは改めて己の計画の甘さを思い知る。

何も得ないままアメリカに戻ったグレッグは、ヘルニ博士に泣き
ついた。失敗したこと、ついでに、アメリカに待たせていた彼女
にもふられてしまったこと。ヘルニ博士は橋のための金を出した。

老齢の博士には死期が近づいていた。口の悪い老人だが、子供た
ちのための学校ができるのを、彼は心底心待ちにしていたのだ。
早く建てて写真を持って来いとグレッグをせかす。

博士の助力で橋ができ、学校の建設にも取りかかった。この頃、
グレッグは新しい恋をしていた。今度は結婚にまでこぎつけ、工
事を済ませてアメリカに帰りたかった。博士の容態も気になる。

急ぐ彼に村の長老が言った。「私たちのやり方も尊重してくださ
れ。よその人が来たとき、私たちはお茶を出してともに飲む。最
初の一杯目はよそ者。次の二杯目はお客、三杯目で家族となる。
その時間を大切にしてくだされ」

欧米のやり方がすべて正しいわけではない。村には村の文化と歴
史があるのだ。その中に入り込まなければ真の理解など得られる
べくもない。グレッグはそのことを知った。

イスラムの掟厳しい山間の村だ。あるとき、アメリカ人の学校が
建てられるときいて、有力者が妨害に訪れた。逆らって建てるの
ならば、羊を十二頭差し出せと無茶を言う。羊は家族であり、大
切な財産だ。

村人は泣いたが、長は言った。「悲しむことはない。彼らは一時
の食料を手に入れたかも知れんが、我々の子供たちには学校が残
る。字が読めるようになる。そのためなら何を犠牲にしても惜し
くはない」

コルフェ村に学校が建ち、グレッグは博士の支援を受けて、ほか
の村にも学校を建てようとした。親たちはこぞって学校を求めた。

貧しいのは教育がないせいだと言う。狂信的なイスラム信者にな
るのは、まともな教育が受けられないせいだと言う。テロの温床
とは実は、教育を受けられない貧困の中にあった。

誘拐されたり、資金援助にかけずりまわったり、アメリカでテロ
リスト扱いされたり、グレッグは大奮闘。やがて8年が経ち、パ
キスタンにいたグレッグに重大なニュースがもたらされた。

「アメリカの、ニューヨークという村が爆撃された」

それがイスラム教徒の行いであると知り、グレッグの友人たちは
皆心を痛める。イスラム教徒の名に値しないと、憤慨する者ばか
りだった。

あるとき、夫を亡くした女性たちがグレッグのもとへやって来た。
貴重な、生みたての卵を手に手に持って。彼女らは言った。

「ニューヨーク村で夫を亡くした女性たちに届けてください。私
たちからのお悔やみのしるしとして」


もうここで大号泣だった。たんぱく資源の乏しい村だ。羊が一頭
解体されると、人々は祭り気分でむしゃぶりつく。大切な卵を、
同じ悲しみを味わったアメリカ人に渡してくれとパキスタンの貧
者の村が泣くのだ。傍目にこっけいなところがまた、いじらしさ
と感動をそそる。

アメリカが国を挙げて憎み、敵と定めたイスラムの女が心を痛め
ている。敵であるはずのアメリカ人のために。戦争とは何なのか、
考えさせられる場面だった。

また、教育の大切さにも、改めて思いを深めることができた。

今年を締めくくるにはふさわしい一冊と言える。

あとがきがまた最高にいい。素晴らしい「オチ」になっている。
そやな、そやなと非常に納得できた。確かに私も、グレッグ先生
は素晴らしいと思うけれど、親しく付き合っていける自信はない。
(ごめんよ、グレッグ)

最後でさっぱり笑えるのもよかった。

スリー・カップス・オブ・ティー  グレッグ・モーテンソン

No.381 石田衣良「龍涙(池袋ウエストゲートパーク9)」→ 3.5点

石田 衣良「龍涙(池袋ウエストゲートパーク9)」→ 3.5点
発行元 :株式会社文藝春秋
初版発行:2009/8/10

石田 衣良(イシダ イラ)

あらすじ

池袋商店街の一角にある小さな果物屋。
ここの若主人(兼使用人)の真島誠は、警察や弁護士でもとうてい解決が
難しい様々な事件を無料で解決してくれる若きトラブルシューターとして
池袋中の若者たちに知られていた。

悪質なキャッチセールスの被害に苦しむOL、孤独なホームレス、社会の底
辺で喘ぐ中国人労働者。
今日も真島誠の前には様々な人生の中で深刻なトラブルを抱えた「依頼人」
達が現れる。
絶好調のシリーズ第9弾。

コメント

2001年に衝撃的なデビューを飾った池袋ウエストゲートパーク(IWGP)シリー
ズも、本作でもう9巻目となった。
だいたい一巻あたり4作が収録されているので、既に35作品以上を読んだこ
とになる。

5〜6巻目くらいでは「ちょっとマンネリ&トーンダウンしてきたかな」と
いう感がなきにしもあらずだったが、7巻以降は再び面白さが増してきた気
がする。
一作目からのファンなのだが、絶妙の軽さと読み応えのバランスが嬉しい。

複雑さを増す一方の現代社会に翻弄されながら、そうは言っても俺たち庶民
は半径5mのリアルな世界でひとつひとつ問題を解決していくしかないよな、
という健全な開き直りは本作でも遺憾なく発揮されていて独特の爽快感があっ
た。

個人的には表題作「龍涙」が一番良かった。
まっとうな勤勉さと善意、そしてちょっとした「粋」があればそれだけで人
生楽しいよな、と思える一冊。

石田 衣良「龍涙(池袋ウエストゲートパーク9)」

了。



0点→途中リタイア。読むことが苦痛。出会ったことが不幸。意味が分からない。
1点→なんとか最後まで読んだが、時間のムダだった。つまらない。
2点→可もなく不可もなし。ヒマつぶしにはなったかなというレベル。
3点→難点もあるがおおむね満足。この作者なら他の作品も読んでみたい。
4点→傑作。十分に楽しんで読めた。出会えてよかった一冊。他人にもすすめたい。
5点→最高。とにかく良かった。人生の宝物となる一冊。

※ 小数点は、上記点数の間であるとご理解下さい。

双雲からの言霊

■今日の武田双雲からの言霊

元気いっぱいのときは、人のため。

元気のないときは、自分のために動く。


今日も一日味わいつくしましょう。

2010年12月26日日曜日

双雲からの言霊

■今日の武田双雲からの言霊

依存せず自立するためには、

その過程で「わがまま」が必須であることは事実だ。


今日も一日味わいつくしましょう。

週刊 お奨め本 第426号『路地裏ビルヂング』

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週刊 お奨め本
2010年12月26日発行 第426号
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『路地裏ビルヂング』 三羽省吾
¥1,524+税 文藝春秋 2010/7/10発行
ISBN978-4-16-329340-0
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三羽省吾を紹介するのは、これで四回目かな?
発行人けっこうお気に入りの作家です。


入り組んだ路地の、築後半世紀近く経っていると思われるおんぼろビル、「辻堂ビ
ルヂング」を舞台にしたゆるーい人間ドラマ。
感動とか涙とか愛とかそーゆードラマチックな盛り上がりはないし、ほのぼのとか
優しさとかそーゆー癒しもないけど、ふつーの人々のそれなりの頑張りが、ふつー
にいい感じです。


辻堂ビルヂング5階に、健康食品&グッズの販売会社「オーガニック・ヘルス
(株)』がある。
フリーターだった加藤は、とりあえず半年頑張って失業手当をもらう目的で、こ
の会社に入社した。おそろいの黄色いジャケット、体育会系のノリ、ノルマたっ
ぷり。同期入社はどんどんやめていく。
残ったのは、加藤、元ヤンの酒井、気の弱そうなデブの宇佐美、幸薄そうなメガ
ネ女の沼田、五十くらいのくたびれたオヤジ久米沢。
そんななか、ひとりマイペースだった久米沢の口車に乗って…。
                                「道祖神」


辻堂ビルヂングの屋上には、植木鉢やプランターが大量に置かれ、けっこうな数の
緑が茂っている。その片隅に、小さな祠。
ビルが建っている場所は、江戸時代には街道が交わる辻に当たり、道中の無事を祈
る道祖神が屋上に移されて今も祀られているのだという。

二階には「あおぞら保育園」という無認可保育園がある。
五十半ばで資格のないおばさん、種田はここで働いている。
自慢の息子は結婚して、母親を引き取って一緒に暮らしたいと毎日電話をかけて
くるが、種田は仕事をやめる決心がつかない。仕事はハードで月給は十二万ちょ
っとしかない、執着するような職場じゃないのに。
                              「紙飛行機」


> なにも持っていないただのおばさんでも、きっかけさえあれば、風を上手くつか
> まえさえすれば、まだまだ飛ぶことはできる。[…]
> おばさんは、まだ終わっていない。
> このゾクゾクを手に入れただけでも、私はもう既に飛んでいる。(108頁)


三階には学習塾「辻堂塾」。
そこでアルバイト講師をしている大貫。いまだにバイト生活の自分に忸怩たるも
のを感じている。学生時代の友人の結婚披露宴に出席し、そこで定職を持たない
海外放浪趣味の河原とトラブる。
塾の教え子は公開テストを受けたくないと相談を持ち込み、生活費は底をつき、
黄色いジャケットの男にはひそかに思いを寄せている二階の保母さんのことをか
らかわれ…。
「サナギマン」


> 「人生ってのは、敗北感の上に喪失感が重なって、そのまた上に虚無感とか脱
> 力感とか、たまには人に騙されて、そいつをぶっ殺したいような気持ちとかも
> 重なってって出来てる。つまり人生つーのはだなあ、挫折と絶望のミルクレー
> プなんだよ」(161頁)


四階には「HN不動産分室」がある。契約社員の桜井は、今日もひたすら電話を
かける。最近、このビルに続けざまに泥棒が入り…。       「空回り」

六階「辻堂デザイン事務所」の営業マン、江草。大学で故障するまで続けた野
球の無念を仕事で晴らす。がむしゃらに、やるだけやったといえるだけのこと
をやってみせたいのだ。後輩の背とは振り回されてたいへんだけど。 「風穴」

一階にはお食事処「辻堂」。おでん屋だったりカレー屋だったりお好み焼き屋
だったりホルモン焼き屋だったりするが、店員は常に同じ。そして、とにかく、
まずい。ここで置物のようにちんまりしている管理人が、辻屋の歴史を振り返る。
「居残りコースケ」


ばかばかしくもナサケナイ、おんぼろビルで出会う人々の日常ドラマ。
頑張ってる人も、流されてる人も、ちょっとだけ前向きな人も、困ってる人も、
いろんな人がいて、それぞれの事情のなかでそれなりに毎日を生きている。
同じビルのなかで毎日顔をあわせ、だけど名前も知らない仲の、不思議な距離感。

上に引用した「人生ミルクレープ」、ここだけ読むとなんかマジメにいいこと
言ってるっぽいですが、実はそうとうお間抜けです(爆)。映像を思い浮かべて
しばらく思い出し笑いが続きました(笑)。三羽省吾って、こういうの、うまい
よねー。



『路地裏ビルヂング』 三羽省吾

2010年12月25日土曜日

第339冊 奥田英朗「イン・ザ・プール」

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  乱読! ドクショ突撃隊♪    第 339 冊
              
                       2010.12.25
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【1】読書感想 (第339冊)
  
奥田英朗  「イン・ザ・プール」  文春文庫

精神科医と患者のとんでもエピソードからなる、短編5編。
こいつぁ面白いや、と第1編(憂鬱脱却のため水泳にのめり込む話)は
読んだが、編を追う毎にインパクトが弱まってくる。
ベストセラーになって、映画化されて、本書の次回作「空中ブランコ」は
直木賞と、今じゃ奥田英朗の出世作となったわけだが、奥田作品全体を
見通せばそこまで評価できるかな?というのが正直な感想。

総合病院の御曹司?は精神科医で、各科で放り出された患者が最後の頼み
と精神科のある地下にやって来る。
思い起こせば、各学年で一二を競う天才秀才は医者になっている可能性が
高い。
そんな彼らは、明朗活発でスポーツマンというより、一癖あるおとなしい
人が多かった。
そこへ以って、開業医の子供であるわけだから、少し変わった医者がいる
設定は実にノーマル。

変わった精神科医に、変わった症状の患者がやって来る。
治療法も変わっていれば、成り行きや結末も変わっている。
小説としてはなかなか良く出来た基本設定なんだが、これが何パターンも
続くと胸焼けしてくるのは私だけだろうか。

面白い事は確かだから、各編、時間を空けて時々読んだ方が良かったのか
も。
もしくは数冊の短編集を著者も変えて、交代交代しながら読めば良かった
のかも。
そうは言いつつ、当然次作「空中ブランコ」は読むつもり。
奥田英朗自体は大好きだから、これからも読んでいきたい。


イン・ザ・プール (文春文庫)

双雲からの言霊

■今日の武田双雲からの言霊

戦争なんて絶対亡くならないと言う人よりも、

なくそうともがいている人のほうが好きだ。

今日も一日味わいつくしましょう。

2010年12月24日金曜日

本のご紹介です。「普天間」交渉秘録

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これであなたも読書通!話題の本をほぼ日刊でご紹介

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本日は ◆社会派、ドキュメンタリー系

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「普天間」交渉秘録  守屋 武昌
¥ 1,680  新潮社 (2010/7/9)

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クリスマスなのに。アホのくせにに。いろんな意味で勘違いの
チョイスとなってしまったが。

しかしいい本だった。何より文章がいい。硬質で理路整然として
いて、その上情景描写も素晴らしい。冒頭の、沖縄の海の描写を
読んで、素敵な冒険小説が始まるのかと思ったほどだ。

だが、難解でもあった。もともと政治に詳しくはない。事態や人
が入り乱れ、正確に読めた自信はない。種々読み間違いがあるか
もしれないが、自分なりにわかったことをまとめておきたいと思
う。

守屋氏は防衛次官という職にあって、普天間基地返還の仕事に長
く関わってきた。本書ではその経緯と、著者なりの自衛隊考察の
がつづられている。今日のメルマガでは、普天間基地返還交渉に
ついての部分を主にご紹介したい。

まず、アホの私が驚いたのは、普天間基地返還については、日米
の合意がすでになされていたということ。住宅地の中にあるこの
基地の危険性は、アメリカも十分承知だということだ。

1996年、普天間基地については、海上施設を作ってそこに収容す
ることに取り決めがされていた。名護市の沖に埋立地を作って、
そこに基地を移転するつもりだった。

しかし、沖縄が求めたのは「移動」(本書では単純返還という言
葉が使われている)ではなく、県内からの完全撤去だった。基地
を他県に移せというわけだ。

それを受けて、海上に空港を作る案が提出される。最初は軍用空
港で、後に民間用として沖縄に払い下げられる予定だった。稲嶺
県知事はこれを是として公約に掲げ、当選した。

海を埋め立てるにはアセスメントが必要である。環境を調査し、
影響がないよう配慮がされなければならない。この費用は当初、
沖縄が持つとされたが、知事は費用を出すことを渋った。

政府が金を出して調査を開始すると、妨害の動きが見られた。調
査する民間会社の人間に対して、小船に乗った市民の嫌がらせが
続いた。

やがて、沖縄で事業を手がけるある有力者から「浅瀬案」が提出
される。辺野古近くの浅瀬を埋め立てて、ここに滑走路を作ろう
というのだ。

驚いたことにこの案は、日本政府の頭越しに米国にも持ち込まれ
ていた。沖縄県民から出されたものだ。これで交渉が進むと思っ
たが、浅瀬を埋め立てるのは環境に最悪の影響をもたらす。環境
団体を敵に回すことは必至と考えられた。

小泉元首相はこの案を認めなかった。自身、環境団体に敵視され、
選挙運動が危なくなった経験がある。彼らと対立してはいけない。
また、ジュゴンなどの海洋生物への保護も必要であった。

沖縄は浅瀬案を押す。この辺が奇怪なんだけど、彼らはこの案が
通れば、環境団体が動き始めることを知っているのだ。実質的に、
実現不可能な案であった。

(ここで改めて書いておくけれど、この本は自衛隊の「中の人」
によって書かれたものである。沖縄には沖縄の主張がもちろんあ
ることを忘れてはいけない。しかしこの本を読む限りでは、沖縄
の交渉術は非常にしたたかであり、狡知であるように見えた。)

守屋氏は対抗して、キャンプシュワブの延長上に土地を確保して
滑走路を作る「L字案」を唱える。これなら海への影響は最低限で
済む。

以後、交渉はこの案をメインに進み始め、滑走路をV字型にすると
いう修正が加えられる。

防衛省が窓口となる交渉であるが、沖縄は外務省につてを作り、
省庁同士の争いを引き起こそうとする。V字の滑走路の角度にもこ
だわりを見せ、交渉は遅々として進まなかった。

この間、防衛省の不祥事もいくつかあった。そのたびに守屋氏は
批難の的とされ、また、彼自身を陥れようとする動きもあった。
小池百合子議員などは、沖縄の言葉に篭絡され、交渉の場で一人
反対の陣を張ったこともある。

だがその後、小池議員は梯子を外された格好になり、「なんだっ
たの?」とぼやく羽目に。


守屋氏の日記をもとに書かれたもの。様々な人が実名で出てくる。
大臣が何度か変わり、そのたびに状況も変わるさまには、読んで
いて頭が痛くなるほどだった。

なぜ沖縄はこうまで交渉を引き延ばそうとするのか。はっきりと
書かれてはいないが、あとがきで基地の周辺に落ちる金が、利権
があることが示唆されている。

このあとがきでは同時に、基地周辺に住む一般市民についても言
葉が添えられている。安全を脅かされ、不安なままで過ごす人た
ちが沖縄にはまだたくさんいる。

その人たちのことを、一番に考えなあかんはずやんな。


本日ご紹介の本はこちらから↓
「普天間」交渉秘録

双雲からの言霊

■今日の武田双雲からの言霊

語ろう、理想の人類の在り方を。

想像しよう、最悪の事態を。


今日も一日味わいつくしましょう。

2010年12月23日木曜日

第338冊 紀田順一郎「古書収集十番勝負」

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  乱読! ドクショ突撃隊♪    第 338 冊
              
                       2010.12.23
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【1】読書感想 (第338冊)
  
紀田順一郎  「古書収集十番勝負」  創元推理文庫

神田神保町の古書店。
老人店主の余命は、あと1年ももつかどうか。
後継者は二人、同居して病人介護を十年努めた長女の夫と、店主の後釜を
狙って途中参加してきた次女夫婦。
倫理的には長女の夫であり、この店に長く勤めてはいるが本の知識が浅く、
事務的で商売上手とは言えない。
一方次女の夫は浪花の商人。コテコテの大阪人で、東京人が大阪人に持つ
イヤな面全開な人物。
ただし本の知識や商売のからくりに精通しており、こすっからくて目端が
利く。

この二人の婿に対し、老人店主は古書収集十種で競わせる。
これは古書に対して深い洞察のある著者ならではの本領発揮であり、古書
界でどういった本がお宝なのか、古書収集の醍醐味がどこにあるか、など
滔々と語られてゆく。
ここが本書の白眉。

著者としては、古書界の裏話とミステリを絡めたかったんだろうけど、正
直、古書の裏話だけの方が面白い。
「ミステリが何が何でも大好き」という私ではないので、こんな感想にな
るのかもしれないが、素晴らしいミステリになってるとまでは言えない。
古書に絡む大半は素晴らしい面白さで、このあたりを短編集みたいに一編
一冊で紹介してくれた方が嬉しい。

何はともあれ、本好きの私にとっては実に面白かった。
最終盤、いよいよ十番勝負が大詰めになったとき、完全に密室紛失事件に
なってしまうのは白けてしまい、著者はつくづくミステリとして書いてた
んだなぁと思った。

双雲からの言霊

■今日の武田双雲からの言霊

「前向き」とは、

プラスの側面だけを見るといいう意味ではなく、

光も影もすべて抱えたまま前に進むことだ。


今日も一日味わいつくしましょう。

2010年12月22日水曜日

双雲からの言霊

■今日の武田双雲からの言霊

雨の日だからこそ、できることはたくさんある。


今日も一日味わいつくしましょう。