2010年11月28日日曜日

双雲からの言霊

■今日の武田双雲からの言霊

踏みにじられて、

踏みにじられて、

今、少しだけ強くなった自分がここに在る。


今日も一日味わいつくしましょう。

週刊 お奨め本 第422号『脳天気にもホドがある』

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週刊 お奨め本
2010年11月28日発行 第422号
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『脳天気にもホドがある』 大矢博子
¥1,300+税 東洋経済新報社 2010/11/4発行
ISBN978-4-492-04399-8
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今週のオススメはリハビリ日記です。
愛と涙の闘病記…にはなってないなー。
副題が「燃えドラ夫婦のリハビリ日記」。ドラゴンズファンならよりいっそう楽し
めること請け合いでございます。鉄ちゃんなら更に。


なにしろ「リハビリより鉄道、介護よりドラゴンズ」という夫婦です。
ある日突然、脳卒中で夫が倒れた。「右半身の感覚がない」と言いながら、動けな
くなった。救急車で運ばれる動けなくなっている夫、妻に向かって「読みかけの鉄
道本、持っていって」。
筋金入りの鉄ちゃんでしょう!?


鉄ちゃんなのは夫だけだけど、ドラゴンズファンは夫婦共通。
倒れてから一週間。自分の名前を答えることはできるが、妻の名前や今日の日付な
どは答えられない失語症の症状が起きている。そんなとき、「立浪引退、来期かぎ
り」の新聞記事。
妻、スポーツ新聞を買って病室に駆け込み、夫に見せる。
夫、新聞を見て驚愕。食い入るように一面を見つめる。認識力爆発! さらにカレ
ンダーとテレビを指差して、「ドラゴンズHOTスタジオ」を見よう、と意思表示。
曜日の感覚も戻った。
すごい、ドラゴンズ愛でいきなりコミュニケーション成立である。

※ ドラゴンズHOTスタジオ:東海テレビで土曜午前に放送されていた情報番組。
  東海地方ではそういう番組があったのさ。今秋終了。

脳出血の後遺症の一つに、「把持力の低下」というものがある。聞いたことを覚えて
おけない。そのリハビリに、9枚の絵カードの中から「新聞、りんご、鉄道、玄関」
というように先生が4種類を言う。患者は4つの言葉を覚えておいてカードを選ぶ。
とーこーろーがー。
先生が「電車」と言ったとき。

> 「これ、電化されてない」(101頁)

鉄ちゃん魂…。
その後、カードから「電車」は消えたそうです(爆)。


というように、ドラゴンズ愛、鉄ちゃん魂、パソコンマニア、自転車、等々、多趣
味な夫はいろんなこだわりを持ってます。
そのこだわりがそりゃもういろんなところで発揮されます。
好きなものがいっぱいあるから、広い範囲に知識があって、失語症にもおみごとな
「迂言」で対応します。

こういうの読んでると、好きなものが多いこと、興味の対象が広いこと、いろんな
物事をおもしろがれること、っていうのが大事なんだなーって思います。

ところで、介護や福祉関連グッズにはオシャレじゃないものが多い。
「いかにも福祉」「いかにも介護」で、名に鮮やかな青や赤、ピンクに水色。
モノトーンやアイボリーがほとんどない。
片麻痺で着替えが簡便な衣服を選ぶと、基本ジャージやスウェット。デニム風イー
ジーパンツを探したら股下が短くてつんつるてん。
…年輩者向けには、はっきり見分けがつく鮮やかなカラーが望ましい。衣類もラク
なものは年配者向けで、デザイン性は後回し。
でも、若くして事故などで障碍を持つ人だっているんだし、この本で描かれている
夫だってまだ45歳だ。脳血管障碍は若年化している。
つーか、お年寄りだって今どきはオシャレな人、多いと思うんだけど!
きっと諦めちゃうんだよね。それどころじゃないんだしって。


でも、この夫は諦めない(笑)。
車椅子もケアマネージャーさんがいろいろ「こんなものがありますよ」と紹介して
くれるのだが、「形が嫌」「色が嫌」「デザインが嫌」「なんか嫌」けちょんけちょん。
最終的には自転車メーカーが出してるスポーツタイプの車椅子を見た目優先で機能
度外視で選択。いいのかそれで。いいよねそれで。使う人がそれで気分がよければさ。

妻である著者、大矢博子は、書評家・コラムニスト。
発行人は『本の雑誌』という書評誌で常々拝見してまして、もともと好きだったん
ですよ。ワタシがコージー・ミステリという分野に目覚めたのも大矢博子の紹介か
らだ! というわけなんで、本屋さんでこの本を見て思わず手に取ってしまったの
ですが、名古屋以外でちゃんと売れてるかしら。と、ちょっと心配。
すごくおもしろいから、ぜひ皆さんに読んでほしいなあ。


この本読んで、いったい何回声出して笑ったことか!
すっごくおもしろいです。ほんとうに!



『脳天気にもホドがある』 大矢博子