2011年1月2日日曜日

第341冊 原りょう「私が殺した少女」

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  乱読! ドクショ突撃隊♪    第 341 冊
              
                       2011.1.2
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【1】読書感想 (第341冊)
  
原りょう  「私が殺した少女」  ハヤカワ文庫

直木賞とファルコン賞をW受賞した、原りょうの代表作にして傑作。
原りょうの「りょう」は、「寮」のウ冠を取った字体であり、文字化けし
そうなので使用しない。

題名から邪推すると、ロリコン犯人の悪徳小説のように思えていたが、
内容は全く違う。
沢崎探偵が依頼主宅を訪問すると、突然誘拐犯の共犯者として逮捕されて
しまう。
何がなんだか判らない展開はまるで自分が沢崎探偵になっている様に同化
させてゆく。警察署で取調べを受け、事情聴取を受けている頃には完全に
小説にのめり込んでしまっている。
依頼主の娘、天才ヴァイオリン少女が誘拐され、沢崎探偵は誘拐犯の一味
と誤解されていたのだ。
誘拐犯からの相次ぐ指令で、事態は少しづつ見えてくる。
この読めば読むほど見えてくる展開がたまらん、これは最高に傑作だ。

ハードボイルドの権化のような作品。
探偵の行動や思考・会話は一言一句おろそかに出来ない隠し味があり、
三十分で二十ページしか読み進められない。
四百数十ページの長編なので、時間を見つけては読み進めたが、完読まで
に一週間も掛かった。
でも、この一週間は本当に有意義だった。
面白い本を読んでいる期間は、本当に楽しい。

著者の第一作「そして夜は甦る」は良さが判らなくて、自分には合わない
作家なんだろうと本作(第二作)を長い間放置していたんだが、こうも
素晴らしい第二作に出会えた例はない。
第三作も素晴らしければ著者が本物だという事だし、そうでなければ本作
「私が殺した少女」が本物という事になろう。

四百数十ぺーじあるのだが、どのページも目が離せず、淡々とジリジリと
話は進む。予想外の展開が多く、ストーリーは探偵の勘がことごとく当た
るのが有利だが、警察捜査と探偵単独捜査の対比によって違和感とまで感
じさせないようにしている造りが美味い。
誘拐となれば家族や親戚が重要な登場人物なのだが、最初から「変だな」
と思う動きをしている人物がいる。
えてしてこういう人物の動きは最小限の描写に留められており、ここに目
星をつけて読み、最終的にもクローズアップされてしまったのは残念だが、
何度も事件が解決しそうになる造りなので、その都度「読みが間違ってた
のか?」と混乱できて楽しめた。

ハードボイルドものは東直己や黒川博行などで好きだが、本作で一層好き
になった。
こういう「早く読めば良かった」と思える傑作に、今年は何冊出会えるだ
ろう。



私が殺した少女 (ハヤカワ文庫JA)

双雲からの言霊

■今日の武田双雲からの言霊

百年じっと願うより、

今、一歩踏み出す。

今日も一日味わいつくしましょう。

週刊 お奨め本 第427号『引かれものでござい』

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週刊 お奨め本
2011年1月2日発行 第427号
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『引かれ者でござい』 志水辰夫
¥1,600+税 新潮社 2010/8/20発行
ISBN978-4-10-398606-5
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今年最初のオススメ本は、時代小説から。
そういえば2010年の最初のオススメも時代小説でしたね。?田郁の『八朔の雪
 みをつくし料理帖』。ここ数年、時代小説好きなんです(笑)。


さて、『引かれ者でござい』。
『つばくろ越え』の続編、蓬莱屋帳外控シリーズ二作目になりますが、前作を読
まずとも、本書からいきなり読んでも問題ありません。ありませんが、やっぱり
順番に読んだほうがわかりやすくはあります。


蓬莱屋は飛脚問屋。江戸から届け先までひとりで運ぶという「通し飛脚」を考案
して名を売った。ひとりで走りぬく健脚、預かり物を守り抜く信用、飛脚を務め
るのは誰でもよいというわけではない。
蓬莱屋の飛脚の面々がそれぞれの仕事を通して関わったさまざまな土地、事件、
人…。

三篇収録の短篇集。

表題作の「引かれ者でござい」は、尊皇攘夷を騙る悪党浪人連中から放蕩息子の
身代金を要求された多賀屋の使いで、三百両を運んできた鶴吉の話。
「旅は道連れ」では仕事を終えて急ぎ江戸へ帰ろうとする宇三郎が、大雨で氾濫
した川で足止めを食らい、迂回路を求め峠を越えようとしたところ、思わぬ道連
れができ…。
「観音街道」は、むかし蓬莱屋で勤めていた次郎吉をふたたび飛脚仕事に誘うた
めにやってきた治助が、藩に締め付けられる炭焼き衆の反乱に巻き込まれる。

江戸時代を舞台にした小説、という時代小説のくくりのなかで、飛脚である彼ら
は江戸から離れて、地方を走る(『つばくろ越え』のほうでは江戸を舞台の話も
あるのだが)。
町人ではない、武士でもない、本来圧倒的多数であるはずの、農村、山村に生き
る人びとの暮らしをリアルに描く。
百姓も、炭焼きも、浪人も、抜け目なく、したたかに生きている。
ずる賢く、狡猾に、精一杯に、できるかぎりの手を使い、知恵を使い。
虐げられる民衆という姿とは遠い、そのありよう。
新鮮!


そしてなにより魅力なのが、志水辰夫の文章である。
美文であるというのと違い、流麗であるとかそういうこともなくて、むしろハー
ドボイルドな文体であるのは、かつて「シミタツ節」と呼ばれていた頃と通ずる。


ここ数年、めっきり時代小説を読む機会が増えました。
私の年齢がそうさせるという部分も無きにしも非ずなのではありますが、実際、
時代小説に優秀な書き手が増えている気がします。
もちろん、時代小説以外の分野でも、優秀な新人はどんどん登場していて、ベテ
ラン作家も新作をどんどん発表していて、だからつまり、分野に限らず読みたい
本に追われて嬉しい悲鳴を上げ続けている今日この頃であります。

発行人はたぶん、普通の方々よりも読書に充てる時間が多くて、その分たくさん
読んでいて、だからこんなメルマガを出しちゃってるわけですが、当然のことな
がらそれでも個人が読める本の数なんて高が知れてます。ほぼ一日一冊、年400
冊ペースで読んでいるにもかかわらず、読むのに追いつかない新刊の数よ! 読
みたいのは新刊だけじゃないし!
もっともっと読みたい、あれも読みたい、これも読みたい。

私よりもっと読書タイムが限られていて、その分読む本を選びたいと思っている
だろう皆さんに、「この本読んでる時間に別の本読めばよかった、もったいなかっ
た!」という思いをしなくてすむよう、おもしろい本をオススメしていきたいと
思っています。
……その「おもしろい」の基準が、上手くマッチするといいんですけど(^^;ゞ。


発行人の独断と偏見のセレクトが、皆さまのお好みと多少なりとも合いますように!


『引かれ者でござい』 志水辰夫