2011年2月8日火曜日

双雲からの言霊

■今日の武田双雲からの言霊

何気ないひとことで、

人生が変わることがある。

今日も一日味わいつくしましょう。

本のご紹介です。逮捕されるまで 空白の2年7カ月の記録

これであなたも読書通!話題の本をほぼ日刊でご紹介



本日は ◆世間話、時事ネタ系


逮捕されるまで 空白の2年7カ月の記録  市橋 達也
¥ 1,365  幻冬舎 (2011/1/26)


イギリス人女性を殺害した犯人、市川達也被告の逃亡記。

三月二十六日、午後九時か十時頃。彼は外出しようとマンション
の部屋の外に出て、私服の警官に囲まれていることを知った。逃
げる。非常階段を降り、住宅地に潜み、包囲を逃れることができ
た。

靴は脱げ、はだしだった。上着もなかった。現金だけを抜き取っ
て、財布は川に捨ててしまった。逃亡が始まる。

都内をふらふらと歩き続けた。後、電車で青森へ。仕事がないこ
とを知り、関西へ逃げた。頭の中に「死国」という小説のことが
あった。四国のお遍路道をたどれば、死者をよみがえらせること
ができると書かれていたように思う。四国へと渡った。

巡礼にまぎれて、四国を回った。歩く、歩く。ひたすら遍路の道
をたどり、あるとき、ビワ畑のビワを盗んで食べた。甘かった。
途端、現実に返る。どれだけ歩いても、死者が生き返るはずなど
ないのだと悟った。

フェリーを乗り継いで沖縄へ。この頃、女性の家族が来日すると
ラジオで聞いた。申し訳ないと思ったが、「誰だって逃げる」と
自分に言い聞かせていた。

ある島に渡った。彼はこの後も、何度もこの島を訪れている。魚
を釣り、植物を食べ、ひっそりと生きた。蛇を食べたことも。

仕事をしようと那覇へ向かった。三十歳ひきこもり。勘当された
とうそをつき、建設現場で働いた。緊急連絡先にと書いた住所に
不備があり、怪しまれる。手配書も怖かった。そこからも逃げた。

島へ戻り、そこから再び関西へ。

西成で、解体の仕事にありついた。ここでは笑ってばかりいた。
そうすれば、人間関係はうまくいく。へらへら笑い続けていたの
で、上からものを言われることがあった。そんなとき、キレてし
まう。そういうところがよくないのだと思う。

いろんな人に出会った。こういうところでは、皆素性を詮索はし
ない。借金を断るすべ、表面上のやり取りを続けるやり方。いろ
んなことを学んだ。現金はすべて腰に提げたバッグへ。金を貯め
て、整形するつもりだった。

これまでにも、針を鼻に刺して、顔を変えようとしたことがある。
したくてするわけではない。だがそうしなければ、見つかって捕
まってしまう。

一度、ディズニーランドにも行った。偶然、大学時代の同級生を
目にしたが、声をかけられるはずはなかった。

関西での現場仕事は続いていた。「はい」と「わかりません、教
えてください」だけを繰り返していた。現場での覚えはよかった
ようだ。働いては沖縄へ。これを繰り返した。

懸賞金がかけられた。うその報道もあった。彼が女装をしたり、
男性相手に体を売ったという内容のものだ。激怒した。捕まって
はならないと思った。逮捕とはつまり、さらし者になることだ。

整形のために病院を訪れたことが、逮捕のきっかけとなった。最
初出向いたのは福岡の病院だ。歯を治そうとしたが、矯正は不要
と言われて断られる。仕方なく、同系列の名古屋の病院へ向かっ
た。

かかった費用は四十万円。眉間にメスを入れた。手術の日、経過
を見るための一週間の間、漫画喫茶で寝泊りしていた。抜糸のた
めにさらに時間が必要だったが、抜糸は自分でやることにした。

福岡へ。そこで身元が割れたことを知った。沖縄へ行こうと思っ
た。あの島で野垂れ死にしたい。フェリーに乗るため鹿児島へ、
熊本へ。九州が封鎖されていることに気づき、いったん関西へ戻
ることにした。そこから沖縄へ、フェリーで一本である。

だが心の中では「ここまでか」という思いがあった。大阪でフェ
リーを待っているときだ。捜査官が近づいてきた。そのとき「あ
きらめなさい」と語りかける声があることに気づいた。

逃亡、二年七ヶ月。死体遺棄の時候は三年だ。その前に捕まって
よかったと思う。


その足取りや、一文無しで逃げる方法を知りたい人にはいいかも
しれない。(それもどうかとは思うけど) それをのぞけば大し
て読むべき本でもないと私は思う。

ざんげもない、後悔もない。本が出されたこと自体には、私は特
別思うことはないが、被害者のご遺族には非常に苦しい本だと思
う。

同情を買おうとしているのではないか。そんなレビューがアマゾ
ンにあったように思うが、果たして、これで同情なんかする人が
いるのかなとも考えた。

被害者の女性に対しては、とってつけたような謝罪の言葉が一応、
見られる。だが彼が動揺し、激昂し、丸裸の感情を見せる場面は、
自分のことが面白おかしく報道される箇所のみである。

結局、自分、自分。自分が一番大切なのよ。これで同情なんかで
きる?

印税は受け取らないそうだ。遺族の方か、公共の福祉に使ってく
れと書かれている。犯罪についての記述はない。


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逮捕されるまで 空白の2年7カ月の記録  市橋 達也