長所をガッと伸ばして、
グッと自信をつけて、
短所をサラッと認めよう。
今日も一日味わいつくしましょう。
三浦しをんの連作短篇集。
世田谷線代田駅から徒歩五分の、築ウン十年の木造二階建ての木暮荘が物語の舞
台。木暮荘の住人と、その周辺の人々が巻き起こす、おかしな物語。
木暮荘203号室の住人である坂田繭が、恋人の伊藤晃生と日曜日の昼下がりにごろ
ごろしていると、三年前にふらりといなくなった元恋人の瀬戸並木が突然やって
きた。
三年間の諸国放浪を終えて帰国したばかりだという。
「住むところが見つかるまでここにいさせて。だって俺たちつきあってるだろ?」
「断じてつきあってない!」
奇妙な三角関係が始まって…。
「シンプリーヘブン」
木暮荘の大家である木暮氏は、年寄りではあるが、元気である。
最近木暮氏が考えていること、望んでいることは、セックスである。
きっかけは、旧くからの友人の見舞いに行ったことだった。七十を過ぎている友
人は、老妻にセックスを求めて断られたと愚痴をこぼした。それを聞いて、木暮
は俄然セックスがしたくなったのだ。遠からず訪れるであろう死のときの前に。
頼むべきは妻であろうが、妻とは遠慮のない間柄であるから断られる可能性が高
い。死の間際に妻にセックスを求め、妻に断られてがっかりしたまま死にたくな
い。…
「心身」
峰岸美禰はトリマーだ。一年ほど前に引っ越してきて、近所を散歩するのも楽し
い。散歩の途中、気になるアパートを見つけた。広々とした庭に雑草が生き生き
とはびこり、薄汚れた雑種の犬が飼われている。
ああ、洗いたい。あの犬をシャンプーしてやりたい。
そんなある日、代田駅で奇妙なものを見つける。どぎつい水色をしたキノコのよ
うなもの。謎のキノコはどんどん大きくなり、いつのまにか男根そっくりの形状
になった。しかも誰もその存在に気づいていないらしい。それが見えるのは、美
禰と、駅で知り合った前田という男だけだ。
前田はミネという名のプードルを飼っている。そして、ヤクザだ。
「柱の実り」
木暮荘201号室の神崎は、外食産業に勤めるサラリーマンだ。
ある日、掃除機を片付けようとして、うっかり押入の奥の壁を破ってしまった。
隣室の押入との間は板一枚で仕切られているだけだったのだ。どんだけ壁が薄い
んだ! これでは階下の音が丸聞こえなのも当然だ。
空室である隣室にしのびこんだ神崎は、102号室の女子大生の生活を覗き見ること
に熱中しはじめた。
覗き見は気持ちがいい。目だけの生き物になるようだ。
「穴」
他に、坂田繭の勤め先である「フラワーショップさえき」の佐伯が夫に向けるジ
ェラシーが泥の味がするコーヒーに象徴される「黒い飲み物」、「穴」で覗き見
される側の女子大生が、友達が産んだ赤ん坊を押し付けられて右往左往しながら
育児に励む「ピース」、坂田繭を諦めきれない瀬戸並木がストーカーもどきにな
って、「フラワーショップさえき」の常連客であるニジコに拾われる「嘘の味」
の、全七編収録。
共通するのは、セックス。
人と人がつながる。セックスと、人肌のぬくもりで。
> 男は花束をとおして、自身の力をアピールしようとする。金銭や自分の存在の
> 大きさといったものを。でも女は、受け取った花束から相手の気づかいや対話
> の意志を読み取ろうとする。どれだけ自分の好みを知ってくれているか、どれ
> だけ細やかな思いを注いでくれているかを。
> 男女の気持ちがすれちがうのも当然だ。[…]だからこそ、いつまでも飽きずに
> 恋ができるのかもしれない。(122頁・「黒い飲み物」)
> 並木は繭のことが好きだった。いままでに寝た女は繭しかいない。並木が肌を
> 添わせ、粘膜で粘膜に触れたことのある生き物は、地球上で繭以外にいない。
> これから繭のほかに、そういうことをしたいと思える相手が現れるのか定かで
> はない。もし現れなかったとしても、我が人生に一片の悔いなし!(229頁「嘘の味」)
「穴」に関して言えば、すべての男性に読んでほしいね!
女性に対する夢は消えるかもしれないけど、現実的に女性への理解は深まると思
うぞ。さすが三浦しをん、リアルだぜ〜。
いや、すべての女性がここまで自堕落ではないとしても。
帯や、レビューにあるみたいに「木暮荘に住みたくなる」ってことはないけど
(音がダダ漏れだったり、覗き見されたりするようなアパート、やだ!)、住
人たちがやさしいのはたしかです。
なにかあったら、駆けつけてくれる。
助けが必要なときは手を貸してくれる。
木暮荘の生活を覗いてみませんか。
夫の隆と共にクルーザーで世界一周の旅に出た清子。嵐で遭難してしまい、小さな島に流れ着いた。そこは無人島であった。
やがて、与那国島のきついアルバイトから逃げてきた日本人の若者たちが流れ着く。さらに中国籍の漁船から捨てられた中国人の男たちが加わる。
清子は「トウキョウ島」と名付けられた島の唯一の女、女帝として君臨する。果たして清子は生き延びることができるのか。救援の手は延びるのか。
無人島生活には憧れる。小さい頃、「ロビンソンクルーソー」や「十五少年漂流記」に心踊らせた人も多いのではないでしょうか。 女性を主人公にしたところが新しいですね。
東京島 (新潮文庫)
これであなたも読書通!話題の本をほぼ日刊でご紹介
☆−−−☆−−−☆−−−☆−−−☆−−−☆−−−☆−−−☆
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本日は ◆話題の小説系
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KAGEROU 水嶋ヒロ
¥ 1,470 ポプラ社 (2010/12/15)
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ああ、面白かった。本を読みながら、声を出して笑うなんて本当
に久しぶりだ。評判どおり約一時間で読了。わけのわかんない箇
所の戻し読みなんかしなかったら、きっと40分くらいで読めてた。
主人公はヤスオ。41歳の誕生日を明日に控える中年男。リストラ
勧告「らしき話」を受けたので自ら会社を辞め(やむを得ぬリス
トラではない、かっとして自ら辞表を提出している)、借金まみ
れになって自殺を思いついた。
行き着いたのは閉店したデパートの屋上。死のうとフェンスに足
をかけたとき、「ビリー・ジーンのときのマイケル・ジャクソン
のような」黒服の男に止められる。彼はキョウヤ。全日本ドナー・
レシピエント協会の者だと名乗った。
臓器が金になるという。借金を返して、父母に残す資産があると
わかり、ヤスオは逡巡する。ちなみにヤスオ、独身である。結婚
を考えていた女性はいたが、リストラ(?)後、別れを告げられ
てしまった。(40歳という設定にしては、どうなのって感じ)
しかし、どうせ死ぬのだしと、ヤスオはキョウヤの申し出を受け
た。組織の病院へ行き、検査を受け、よくわからんけどデパート
で心臓発作の芝居を打って(その症状が出る不思議な薬がある)、
無事ヤスオは死人となった。
そのとき、組織は精巧な人形を作って両親に見せた。ヤスオの死
を納得させるため。ヤスオは嘆く両親の姿を見て、死ぬべきでは
なかったかと悔やむ。
臓器の提供者が決まった。手術場所への移動の途中でヤスオはそ
の相手と偶然出会う。二十歳になる美しい女性だった。茜という。
彼女の助けになるとわかり、ヤスオはやや安堵する。
ヤスオが再び目を覚ましたとき、彼の体からは心臓が失われてい
た。無事茜に渡ったようだ。だが他の臓器を提供するはずのド
ナーに不慮の事故があり、心臓以外の臓器はまだ彼の体にある。
心臓のないヤスオに生があったのは、人工心臓が埋め込まれてい
たからだ。……!
人工心臓はぜんまい仕掛け。電源を外しても30秒は機能するよう
作られている。ぜんまい仕掛け!
やがて他の臓器を提供する相手が決まり、ヤスオは脱走すること
を決意した。
ヤスオが寝ているベッドには、上体を起き上がらせるためのハン
ドルがついている。リモコン操作ではない。今どき。このハンド
ルが心臓を動かす部分にぴたりとはまることがわかった。
電源が切れる30秒の間のどきどきアクション、ベッドのハンドル
を人工心臓に取り付け、ヤスオは病室の外へ。
(ぜんまい仕掛けだから、ハンドルで回せば動くらしいの)
夜である。なのになぜか、心臓病で入院していた茜と庭で再会。
この時点で手術から(つまりヤスオの心臓が移植されてから)、
二ヶ月が経ったという設定なのだけど、いいのか? 夜中に散歩
なんかしてて。
とにかく出会ってしまったので、二人は茜の秘密の隠れ家へ行く。
防空壕であったらしいその穴の中で、二人は命のすばらしさにつ
いて語り合う。
追われている自覚があるのだろうか。喉が渇いたため地上に出た
ヤスオ、捕まってしまう。彼をここに連れてきたキョウヤは、仕
事の多忙のせいなのか倒れ、
ここから最後のネタばれ
ヤスオの脳が、キョウヤの体に移植される。キョウヤとなったヤ
スオは茜に会いに行き、彼女の心臓の音を聞いた。自分の心臓が、
彼女の中で刻む鼓動の音を……。
あかん。面白すぎやろ。人工心臓大雑把すぎやし、そもそもそん
なものがあるのに、なぜ裏社会の臓器提供事業が成り立つんだ?
逃げるときにも切迫感がなく、そもそもその間も胸の前でベッド
のハンドルを回していると想像するともうおかしくておかしくて!
また、ところどころに真面目腐った「命とは」の問答が挿入され、
その重さとのバランスをとるためなのか、いろいろダジャレがち
りばめられているのもすごい。
「イギリスならジンだな。イギリスジン、なんちゃって」
なんちゃってじゃねえよなあ。
感じで言えば、以前取り上げた「王様ゲーム」みたいな感じ。山
田悠介さんが好きな人なら楽しめそうな物語だった。
しかし、いろいろ予想通りだなあ。ある意味安堵。
ファンの方はぜひ!
(としか言いようがないよ……)
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●年末を見据えて、そろそろプリンターの季節ですなあ。
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コミュニケーションにおいて最も大事なことは、
技術や経験よりも、相手を好きになることだ。
否、相手の中に好きな部分を見つけるんだ。
今日も一日味わいつくしましょう。
これであなたも読書通!話題の本をほぼ日刊でご紹介
☆−−−☆−−−☆−−−☆−−−☆−−−☆−−−☆−−−☆
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本日は ◆ビジネス、営業系
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仕事に幸せを感じる働き方 横山 信治
¥ 1,470 あさ出版 (2010/12/10)
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いつの間にか、自分の結婚生活に重ね合わせながら読んでいた。
会社勤めの日々の中で、転職を考えない人は一人もいないのでは
ないだろうか。既婚者の大半が、離婚を思わないことがないのと
同じように。(え? 皆さんはお幸せですか?)
だけど理想の会社(相手)なんて、本当はどこにも存在していな
いのだと思う。奮闘努力の甲斐あって、離別が叶い、新しい会社
(相手)と出会ってみても、自分が変わらなければ元の木阿弥。
やさぐれパンダの日々再び、というのがせいぜいのオチだろう。
著者は金融関連の会社にお勤めの方。これまでに約3000人の転職
希望者に面会してきた。
だがそのうち、転職して成功すると感じられたのはわずか10人程
度。残りの2990人、つまり大半の人々は、転職しても同じ失敗を
くり返すように思われた。
転職希望者はこんな言葉を口にする。
自分は正当に評価されていない。上司が悪い。お客様のための仕
事がしたい。スキルアップ。高い給与がほしい。
しかし、自分の評価に関しては、自己評価の甘さをよく思い知る
べきである。他者に尋ねてみるといい。他人の冷静な目から見る
と、会社の評価が正当なものであるとわかる。
給与に関してもそうだ。能力にきちんと見合っているはず。自分
の市場価格は自分で決めるものである。努力する人、能力のある
人には必ず相応の評価が下される。
また、上司に関しては、不満を言っても無駄。嫌いだと思っても、
自分からあわせていくほか仕方がない。
視点を変えて見ることも大切。若いうち、部下でいるうちにはわ
からない、上司なりの仕事のやり方というものがある。よく「上
司は暇そう」という人がいるが、それでいいのだ。フォローが主
な仕事なのだから、余裕があるくらいでちょうどいい。
顧客第一主義に関してもそうである。たいていの会社は顧客にき
ちんと向き合っている。そうでなければこの厳しい状況で、生き
残っていけるわけがないのだ。
その上で会社の利益も勘案しなければならない。この辺りを勘違
いしている人がたまにいる。
スキルアップも、今いる場所で十分にできること。転職希望者は
「○○がしたい」「○○になりたい」と口にするが、「ではその
ために何か努力をしていますか?」と尋ねると黙る。今できてい
ないことが、ほかでできる可能性はないと考えるべき。
非常に冷静に、転職に対する考えの甘さを指摘している。だが同
時に、ご自分のエピソード(失敗談もあり)をはさみながら、親
身に諭そうとする優しさも感じられる。
なんとこの方、小学生の頃、落語家として活躍をされていたのだ
そうだ。修行を始めるため、落語家の弟子にしてもらうために懸
命の、しかしある意味無謀な行動を重ねた。熱意があれば門は開
くと考えている。
その頃、同じ弟子修行をしていたのがあの鶴瓶さんだった。鶴瓶
さんには「FOR YOU」の仕事の姿勢を教えてもらった。
あるとき鶴瓶さんは、師匠から「何か面白いことをやれ」と言わ
れた。そのとき彼はまだ新人で、できることはあまりない。
だが怖気づかず、鶴瓶さんは師匠の前で裸踊りを始めた。髪をふ
り乱し、一生懸命踊る姿に、人を楽しませたいという熱意を感じ
た。
鶴瓶さんは自分のためではなく、師匠のため、その場にいる人に
笑ってもらうために、できる最大のことをしたのだ。仕事にもそ
ういった姿勢で取り組みたいと思う。それが、幸せに成功する鍵
なのだと考える。
もちろん、コンプライアンスのなっていない会社など、やめた方
がいい会社もある。だけど普通の会社にいる間は、まだできるこ
とを自分の中に探すべき。
いい本だよ。こういう話ってさ、飲み屋で愚痴って説教されると、
正しいとわかっていても「俺の気持ちなんかわかるかよ」って、
やさぐれネタになっちゃうよね。
でも本が相手だとそうはいかない。理路整然としているし、文字
を追ううちに落ち着いて判断できるようになる。
できることを一生懸命やる。目の前にいる相手を好きになって仲
良くする。熱意は通じる。がんばればできる。結婚も一緒?!
これであなたも読書通!話題の本をほぼ日刊でご紹介
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本日は ◆世間話、時事ネタ系
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英国式事件報道─なぜ実名にこだわるのか 澤 康臣
¥ 1,800 文藝春秋 (2010/9/28)
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副題を見落としていた。面白事件簿かと思って読んだら、けっこ
う真面目な、報道に関する問題提起の本だった。
とはいえ、イギリスでの事件報道の実態が興味深く、読み始めれ
ばそれなりに読める。やや内向き、業界向けのきらいは残る。
著者は通信社で社会部の記者をしている。一年休職をとり、英国
オックスフォード大学でジャーナリズムを学んだ。その折に感じ
た日英の報道の違いを本書にまとめている。
売春婦が殺される事件があった。それも四人連続で。過去に起き
た「切り裂きジャック」を思い起こさせる、凄惨でセンセーショ
ナルな事件だった。
著者が驚いたのは、新聞がこの事件の詳細を連日、大きなスペー
スを取って報道したことだ。被害者の実名も当然のように出た。
親や知人、友人のコメントも、やはり実名で報道された。被害者
の親の中には、娘の職業を報道で知らされた者もあったようだ。
日本なら考えられないことである。被害者の職業からして、まず
扱いに繊細さが求められる。また日本では、事件被害者の実名を
出さない動きが近年はより強まっている。
だが英国の新聞は実名を出し、顔写真を出し、その人生を克明に
追った。同じ仕事をしている女性にインタビューをして、「15ポ
ンド以下では何もしたことがない」という、強烈な記事を載せた
新聞もあった。
説明を加える。15ポンド以下ではしたことがないとはつまり、そ
の金額以下では仕事を請けたことがない、性交渉をしたことがな
い、という意味だ。
15ポンドはヘロイン一袋が買える、最低の金額である。その言葉
は彼女らが麻薬の常習者であり、そのために売春をしていて、さ
らに足元を見る客が多いことを物語っている。彼女らの仕事の深
くにまで、切り込んだ記事と言えた。
一方で事件の経過や、警察からの発表はそれほど重要視されない。
英国の新聞は、事件を通し人を描き、社会に問題を提起するのが
その役割と言える。
事件関係者の名前を秘することは、彼らの存在を記号にすること
だ。その生い立ちも、その人生も語られることがなくて、どう
やって事件を「人の物語」ととらえることができるだろうか。
ニュースとはつまり、歴史の一場面なのである。それが無味乾燥
で語られることは果たして正しいのだろうか。その人の姿を伝え
ることが、本当の報道ではないのかと、自身の仕事を振り返りな
がら著者は苦悩する。
とはいえ、英国でもやはり、事件を語りたがらない関係者も多い。
また、パブリックの観念が広まっていることから、一度表に出た
情報は公的なものとされ、以後長く使われても文句を言えない状
況ができている。
事件被害者、関係者はそのことを語りたいと思うことがある。
知ってほしいと思うのだ。だが事件の興奮、混乱が終わると、話
したことを後悔することもある。英国の報道にもやはり問題はあ
る。
たくさんの情報提供者とやり取りをするジャーナリスト。リスト
ラにおびえ、薄給ながらも仕事にやりがいを見出す記者。英国の
報道機関の内側がよく描かれている。ご興味のある方はぜひ。
まあでもな、本音を言わせてもらうと、私は新聞やテレビで「事
件の内側、人の物語」なんか、見たくも読みたくもないと思って
しまうなあ。
申し訳ないけど、そういうことが今の報道にできるとは、本当に
生意気だけどあんまり期待できないんだなあ。いやーな気持ちに
なりそうな気がする。ついでだけど、海老蔵ネタには飽きた。
(ごめんなさい。ワイドショーのあり方は、海老蔵さんご本人に
はまったく関係のないことです。お早い快癒をお祈りしています)
まああんまり、被害者の方、事件関係者の方がいやな思いをされ
ないような報道をしてほしいと思うわね。それが一番よ。
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●年末を見据えて、そろそろプリンターの季節ですなあ。
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本日は ◆世間話、時事ネタ系
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わたくしが旅から学んだこと 80過ぎても「世界の旅」は継続中
ですのよ! 兼高 かおる
¥ 1,575 小学館 (2010/9/1)
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世界中を旅してきた兼高かおるさんが、ご自身の人生についてつ
づったエッセイ。
旅のことももちろんだけど、ご自分の老いをしっかりと見つめて
おられる姿には感動した。飾りのない、うそ偽りのない文章を書
かれる方なんだよね。非常に冷静で、ごく自然に受け止めておら
れる。毅然、という言葉がぴったりのエッセイだった。
兼高さんのお母様は明治のお生まれ。しっかりした働き者で、昼
のうちから夕飯の下ごしらえをしていたのだという。品数は多く、
家族にたくさん食べさせるために、お母様は食事の間も台所と食
卓を一人往復しておいでだった。
このことが兼高さんを結婚から遠ざける一因となった。仕事をし
て、家事まで完璧にこなす自信がない。今のカップルを見ている
と、早く生まれすぎたのかなと思うこともあった。
お母様は自由な考え方をする方だった。兼高さんは学校では問題
児だったが、お母様はまるでそのことを気になさらなかった。勉
強をさぼって本を読んでいても、叱られることは一切なかった。
戦後、兼高さんはアメリカに留学する。ここでは体重が激減する
くらい、必死に勉強した。先生のサポートもあって、アメリカで
勉強することはとても楽しかったようだ。
だが病を得て帰国。このことを、兼高さんはちっとも悔やんでは
いない。兼高さんは人生を「運次第」だと考えている節がある。
運任せというのとはもちろん違う。だが人には与えられる運やめ
ぐり合いのようなものがあって、それを活かしていくことが大切
だと考えている。人にはそれぞれの道がある。よいも悪いもなく、
人生とはそういうものだと悟りに似た感覚を持っている。
英語ができるので、インタビューの仕事が舞いこみ、やがて外国
を取材する番組の依頼が舞いこんだ。「兼高かおる世界の旅」の
前身だ。
かつてなかった類の番組で、手本にするものがないのが幸いだっ
た。自由に、思いのまま番組を作ることに決めた。
車の中で、兼高さんの指定席は助手席。窓から外を眺めながら、
目に付いたものをかたっぱしから取材することにした。「兼高さ
んが通った後にはなにも残っていない」と、言われたこともある
ほど。
珍しいもの、変わったもの、世界の風景を視聴者に届けようと必
死だった。市場に行き、有名な人に会い、外国の光景をテレビで
伝えようとした。着物を着、真珠を身に着けラジオを持って、日
本の産業をアピールするつもりでも歩いた。
兼高さんは、仕事と結婚したようなものだ。兼高さんのだんなさ
まは、「兼高かおる世界の旅」。もてる力の9割を、番組に注いだ
ものだった。
やめた今でも、旅は続けている。一人でふらりとミュージアムに
出かけたり、日本の名所をめぐったりしている。
日本は素晴らしい国だと思う。世界を見てきて、日本ほど自然が
豊かで、恵まれた国は珍しいのだと実感している。日本のよさも、
多くの人に知っていてもらいたい。
若い頃との違いも最近は感じ始めている。一緒に世界を回った仲
間が、一人一人世を去っていくと、思い出話ができなくなる寂し
さを感じる。
だから若い人とも付き合うようにしている。世代が違うと話も違
い、これはこれで楽しい。
若い頃のことで悔やまれることの一つは、ずっとノーメイクでい
たこと。大きなシミができて困っている。指先の動作にも遅れが
見られ、老いてきたことを実感している。
一度夜中に体調が悪くなって、入院する羽目となった。そのとき、
携帯電話を枕元に置いていなかったことをひどく悔やんだ。また、
母がしていたように、衣類や下着の整理がついていなかったこと
も後悔の種となった。
またいつか、そのときのために、入院に必要なものはしっかり整
えてある。いざというときのために備えることは、決して後ろ向
きなことではない。
旅に持っていく荷物が、紹介されていたのが面白かった。兼高さ
んはゴムでできたベルトを必ず身に着けていたのだそうだ。
メモをしたノートをベルトにはさむため。ノートを一度、置き忘
れたことがあったため、体から離さない工夫をしたのだ。何より
大切なものだから。
字、大きめ。言葉がとてもきれいなので、読んでいて背筋が伸び
る思いだった。
わたくしが旅から学んだこと 80過ぎても「世界の旅」は継続中ですのよ!
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●年末を見据えて、そろそろプリンターの季節ですなあ。
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本日は ◆自己啓発系
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誰のうえにも奇跡は降りてくる はる
¥ 1,260 PHP研究所 (2010/6/17)
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著者のはるさんは沖縄のユタ。では、ユタとはいったい何なのか。
本書からその答えになる部分を引用してみたい。
「ユタは一般人と同じように生活し、一般人を相手に霊的アドバ
イスを行うことを生業とする在野のシャーマン、カンナギ。沖縄
の人の自警団。
パブリックな場所には存在せず、住民達の先生として地域に存在
し、先祖を祀るだけでなく、現在の生活の悪いところを指摘した
り、幸せの方向にいける方法を教えたりします」
霊的な存在であると同時に、俗世間的な問題にも通じる地域の相
談役のようなものであるか。集団の中に、こういう人を置くのは
古来からの知恵なのかもしれないな。
そんでもってこのはるさん、これまで16万人の人から相談を受け、
カウンセリングを行ったのだそうだ。伝説のユタと呼ばれている。
本書には、その経験から得た人生の知恵、処世術がまとめらえて
いる。女性向けのきらいはあるが、恋愛に偏っているわけでもな
く、誰が読んでもためになる部分はあると思う。
・女性の恋愛について
思い込みは捨てよう。「若くないから恋愛ができない」と悩む女
性が大勢いる。だが「男性は若い子が好き」というのは単なる思
い込みでしかない。
年下の彼とうまくいかなくて悩む女性に、「あなたからアプロー
チしてごらん」とアドバイスすると、たいてい、すんなりとうま
くいく。しっかりした男性は、大人の女性のよさを知っている。
・仕事について
男性社会である。女性はまずそのことを知り、うまく合わせた生
き方をしよう。先を見据え、ニコニコ笑っておなかを開かせ、ず
ばりと切り込んでいくのも一つの方法である。
会社での出来事はすべて「お仕事」。人との関係もお給料のうち
だ。仕事でも恋愛でも、最後に勝つのは人を見る人、相手の出方
を見定めることができる人。会話のキャッチボールを楽しみなが
ら、相手にしゃべってもらうことがうまく事を運ぶコツ。
・人生について
体を動かすと運気があがる。動いてから考えるのも一つの手。そ
の場合、失敗したらさっと方向転換する柔軟性も大切である。
運気には予兆がある。たとえば交通事故。事故を起こす前の行動
を見直すと、かすったり、石が飛んできたり、何かしらのよくな
いことが起きているとわかる。
予兆を早めにつかんで対処しよう。その際、悪いことのあとには
よいことがあるのだからと、恐れず希望を持ち、明るい心持でい
ること。
ネガティブな自分がいやになったら、その思考や行動を変えよう。
性格や性質を変えようと思ってはいけない。無駄だし、無理だし、
とても大変なことだからだ。口に出す言葉を変えるだけで、ずい
ぶんと多くのことが変化してゆく。
それでもマイナス思考が抜けない人は、これまでの自分に感謝し
て別れを告げよう。
マイナス思考に陥っていたのは、それなりの理由があることだし、
必然性があったこと。だがその自分はもう必要はなくて、新しい
自分に生まれ変わろうとしている。
一つの役が終わったと考えよう。「もういいの、これまでありが
とう」と言って、辛かった役目を捨ててしまう気持ちで。希望が
あれば人は死なない。
オーラを見る方法が紹介されている。手を壁にかざし、3D画像を
見るような感覚で手と壁、両方に焦点を合わせる。すると手の先
から見えてくるものがあるのだそうだ。
一瞬、その気になってやってみたけど、私には当然のように無理
だった。面白そうだとは思うんだけど。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
●年末を見据えて、そろそろプリンターの季節ですなあ。
無線LAN&高画質、カンタンLEDナビ搭載。
あらすじ
別れは突然だった。
8年間を一緒に暮らし、私と私の幸福のほとんど全てを形づくっていた男、
健吾が突然私の元から去っていったのだ。
理由は新しい女。
実にまあ良くある話だが、自分の身に起こってしまうと骨身にこたえた。
そして、話しはそれで終わらなかった。
あろうことか、健吾が好きになった女、華子が家に転がり込んできたのだ。
私と華子の、奇妙な共同生活のはじまりから終わりまでを描く。
コメント
なんとも女性らしい視点の作品だなあというのが読後の第一感想。
感性と理性、感覚と思考、ココロとアタマ、主観と客観、いろいろあるけど
常に前者を優先させるのが女性だと言う思い込みが私にはあって、その観点
からいうと本作はいかにも女性的だ。
別に詰まらなくはなかったけど、梨果にも華子にも付いていけねーやと思っ
た箇所がちょこちょこあった。
ちょっと前に「話を聞かない男、地図が読めない女」という本が話題になり、
読んでみて男と女の考え方というか成り立ちの違いみたいなものに「なるほ
どなあ」と感心した記憶がある。
曰く、男と女の最大の違いは「自分」と「外の世界」との捉え方にあるらしい。
確かに個人的な意見としても男は自分というものをどこかで客観視していて、
「まず世界があり、その中に自分が居るのだ」という俯瞰的な認識があるよう
に思う。
対して世の女性は自分という境界線がもの凄く強固であり、「まず自分があり、
それを取り巻く周囲の環境として世界はある」という構図で世の中を見てらっ
しゃるような気がしている。(もちろんどちらが良いとか悪いとかいう話しで
はありません。)
本作は、そういった直球ド真ん中の「オンナ」を梨果と華子という二つのキャ
ラクターの視点からじっくりと描いていて、ふたりの中間にいる健吾が、まる
でテニスボールのように梨果と華子の間を行き来する状況がなかなか面白かった。
まあしかし、男の立場から読んでると、やっぱ女性はよく分からんわいと思って
しまう部分もあるお話しでした。。
0点→途中リタイア。読むことが苦痛。出会ったことが不幸。意味が分からない。
1点→なんとか最後まで読んだが、時間のムダだった。つまらない。
2点→可もなく不可もなし。ヒマつぶしにはなったかなというレベル。
3点→難点もあるがおおむね満足。この作者なら他の作品も読んでみたい。
4点→傑作。十分に楽しんで読めた。出会えてよかった一冊。他人にもすすめたい。
5点→最高。とにかく良かった。人生の宝物となる一冊。
※ 小数点は、上記点数の間であるとご理解下さい。
11月に逝去したノンフィクション作家・黒岩比佐子氏の、最後の著作。
副題の通り、堺利彦と「売文社」がテーマ。
堺利彦は、日本の社会主義運動の先駆者、思想家、啓蒙家。
のみならず。
社会主義者で投獄された第一号、女性解放運動に取り組んだフェミニスト、海外
文学の紹介者で翻訳の名手、言文一致体の推進者、平易明快巧妙な文章の達人、
憲兵隊に命を狙われた男。Etc…
発行人は不勉強で、日本の社会主義史をよく知らないんですけど、太平洋戦争以
前の日本が社会主義者にとってつらい時代であったことくらいは、そりゃわかる。
日露戦争開戦の前年、堺利彦と幸徳秋水は平民社を創設し、週間『平民新聞』を
発行して戦時下に反戦運動を続けた。
平和という理想に燃えた平民社時代は、当時の主義者達にとって美しい時代だっ
た。その後、赤旗事件、大逆事件が起き、幸徳秋水は死刑。
堺利彦をはじめとする社会主義者たちにとって、その後の明治末期から大正期の
売文社時代は、暗闇のなかで息をひそめ、迫害のなかですごした苦闘の時期だった。
著者・黒岩比佐子は、その冬の時代、売文社に焦点を当てて、堺利彦の人物像を
描き出す。
冬の時代から暗黒時代へと向かう時代の中で、堺利彦は「売文社」で、仲間たち
に生活の糧を与えた。
売文社は、現在の「編集プロダクション」の先駆的なもので、おそらく日本初の
「外国語翻訳会社」であった。
実際に取り扱った仕事の一覧を見ると、写真説明文の英訳、雅号の選定、商標考
案、広告文英訳、新刊雑誌発行趣意書、新刊雑誌発行の辞、雑誌原稿、カタログ
編集及び意匠、英文及び独文書簡、演説草案起稿、某氏自伝談話筆記及び編集、
等々。
新刊雑誌の趣意書に発行の辞って、そんなもの発行者が書かなくてどーすんの、
という気もするが。
他に大学卒論やら赤ん坊の命名、絶縁状に金の無心、自殺しようとする男の遺言
の草稿まで引き受けたとのことで、本当になんでもあり。
堺利彦、多才である。
もちろん堺ひとりでそのすべての仕事をこなしたわけではないが、注文が立て込
んできたときの堺の「早業と芸当は並大抵ではなかった」という。「万人向きと
いふあんな調法の人はちょっと見つかるまい」。
堺利彦は、自分ひとりが生きるだけなら、売文社を必要とはしなかった。
名文家で知られ、高名な作家たちとの交友も多かった堺には原稿の依頼もあった。
就職口を奪われ、糊口を凌ぐ術を持たない仲間たちに仕事を与えるためにこそ、
売文社は必要だった。
作家の尾崎士郎は、売文社をモデルとした小説のなかで、堺利彦を大石内蔵助に
喩えている。「仮名手本忠臣蔵」で主君の仇討ちを狙う大石内蔵助が、周囲を欺
くために遊蕩三昧の日々を送るように、堺も官憲の目を欺きながら、時期の到来
を待とうとしたのだと。
1917年、堺は売文社を社会主義運動と完全に切り離す、と表明した。
顧客が社会主義とのかかわりを怖れて依頼をためらうようではビジネスに差し障
りが出る。社員にきちんと給料を支払うためにも、売文社の経営を成り立たせる
必要があったのだ。
> 理想を追うためには、どうしても金銭が必要になる。その金銭を得るために何
> か手段を講じるのは当然で、座して死を待つべきではない。誤解を招くことも
> 怖れず、批判を受けることも承知の上で、堺はこの時期に売文社の大拡張を推
> 進していった。(318頁)
ユーモアと筆の力を武器に、冬の時代を生きた。
幸徳秋水のようなカリスマ性はなく、刑死せず畳の上で病死したことで軽視され
る向きもあるが、堺利彦の存在が日本の社会主義に与えた影響は大きい。
勉強になったうえに、堺利彦がとにかく魅力的で、読んでて楽しかった!
硬い本だと敬遠しないで、まあいちど手にとってみてくださいませ。
If the average human life span was 40 years, how would you live your life differently?
もしも、人間の寿命が40年だとしたら、どんな人生を生きたい?
Would you rather be a worried genius or a joyful simpleton?
悩み多き天才と、単純でハッピーな人。どっちになりたい?
What is the one thing you'd most like to change about the world?
世の中でたった一つだけ変えられるとしたら、何を変えたい?
What is the best choice you slould buy,if you have 1,260yen?
Off course, this one!(笑)
→ 名言セラピー幕末スペシャル The Revolution!
龍馬(33歳)、高杉晋作(27歳)、吉田松陰(29歳)、
彼らは40歳まで生きることができなかった……
文字通り命がけで葛藤の中を生きたサムライたち。
彼らには
一つだけ
何があってもやりぬきたいことがあった……
それは……
革命!
日本を変えること。
「日本史上最高にかっこいい男たちを見よ」
と始まる
「名言セラピー 幕末スペシャル
The Revolution!」
12月10日本日発売です。
→ 名言セラピー幕末スペシャル The Revolution!
これほどまでにかっこいい日本人がいたことを知らずに死んではいけない。
なぜなら、僕らにもその血が流れているのだから。
あなたのソウルスイッチを入れる1冊になったとおもっちょります。
これであなたも読書通!話題の本をほぼ日刊でご紹介
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本日は ◆話題の小説系
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どんぐり姉妹 よしもと ばなな
¥ 1,365 新潮社 (2010/11)
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姉の名前はどん子、妹はぐり子。二人合わせてどんぐりだ。双子
ではない。両親は姉が生まれたとき、対になる名前をつけるべき
妹が生まれることを、なぜか知っていたようだ。
妹の一人称で語られる物語。二人は「どんぐり姉妹」というサイ
トを開き、メールを受け、返信する。
どんぐり姉妹では金銭のやり取りは発生しない。誰かにメールを
出したくなったとき、しかしその相手が見当たらないとき、そっ
とアクセスしてほしいというのがどんぐり姉妹の趣旨である。
両親はのんびりした人だった。二人とも文章に関わる仕事をして
いた人で、その影響なのか、姉のどん子はフリーライターとして
働いている。
妹がメールを見、事務処理をして姉が返信をする。どんぐり姉妹
はさまざまな人のつぶやきを聞いて、その孤独に寄り添う作業を
くり返している。
姉妹の両親は二人が幼い頃に亡くなってしまった。交通事故だ。
新鮮な魚を地方から運ぶトラックに、衝突して死んでしまったの
だ。妹はしばらく刺身を食べられない時期が続いた。
最初に二人を引き取ってくれたのは、静岡のお茶農園の親戚だ。
農園の仕事をたくさんしたが、労働で汗を流すのは楽しかった。
次に身を寄せたのは医者の家だった。派手好きなおばさんと趣味
が合わず、姉妹は次第に追い詰められていく。姉は家を出、妹と
暮らすために懸命に働く。残された妹は衰弱し、ついに腎臓を悪
くするほどになってしまう。
その頃、妹はクラスメイトにひそかな恋をしていた。海が好きな
男の子、麦君だ。海に連れて行ってと、妹は言いたかった。麦君
も一度「いつか」とだけ言って黙り込んだことがある。いつか、
一緒に海へ行こう。
弱りきった妹を、姉が迎えに来た。親戚のおじいさんの家に転が
り込み、介護をし、その死を見取る。姉妹が住んでいるのはその
おじいさんが残してくれたマンションだ。
姉は奔放な恋をしている。結婚はしないという考えだが、恋が燃
えあがる瞬間を楽しんでいる。今のお相手は韓国人の青年だ。四
角い顔をした彼に、姉は父の面影を見ているらしい。
どんぐり姉妹に一通のメールが届く。夫が死んで悲しいというも
のだ。妹はふと、麦君を思い出して消息を尋ねる。そして、麦君
がバイクの事故で亡くなっていたことを知る。
妹にはその予感があった。夫の死を嘆く女性のメールに、不思議
と共感を得ていたのだ。妹は麦君の住んでいた場所を訪ね、偶然
にもその母親と道端で出会う。
持っていた花を手渡しながら、これを海に置いてこなくてよかっ
た、いや、置かずに持ってきたのは何らかの力によるものなのだ
と妹は考える。
どこか不思議な、インスピレーションと優しさに満ちた物語。
あらすじをご紹介してしまったけれど、あらすじなんか、実はど
うでもいいと思えるお話。地の文が面白い。
妹がサムゲタンを作る場面が出てくる。鶏肉や人参の香りが漂っ
てくるようで、とても幸せだった。食べ物が出てくる小説、好き
だわ。
●年末を見据えて、そろそろプリンターの季節ですなあ。
無線LAN&高画質、カンタンLEDナビ搭載。