2011年2月6日日曜日

週刊 お奨め本 第432号『がんの最後は痛くない』

週刊 お奨め本
2011年2月6日発行 第432号

『がんの最後は痛くない』 大岩孝司
¥1,300+税 文藝春秋 2010/8/30発行
ISBN978-4-16-373000-4


今日、ご紹介するのは医師が書いた緩和ケアの本です。
緩和ケアっていうのは昨今話題になっているのはご存知の方も多いかと思います
が、縁のない方は聞いたこともないかも。
ウィキペディアに拠ると、「生命(人生)を脅かす疾患による問題に直面してい
る患者およびその家族の、QOL(人生の質、生活の質)を改善するアプローチ」と
いうことだそうで、早い話が、末期がんの患者につらい治療を押し付けるよりも、
本人の望む生活ができるようにしましょうね、ということ。
がんに限らないし、治療方法の点だけにも限らないし、終末期医療にも限らない
んだけど。この本の内容に関してはそーゆーことなので、とりあえずそーゆー理
解でヨロシクです。

著者の大岩先生は終末期のがん患者を対象にした、在宅緩和ケア専門の診療所を
開いている。

緩和ケアの専門医、というか、もひとつ専門性を強めて「在宅緩和ケア」。
個人的に、これ、すごく関心のあるテーマなんですよ!
そういう理由で今週のオススメ本な訳ですが(^^;ゞ。
余命数ヶ月となったら、病院でぎちぎちに管理されながら残りわずかな生を終え
たくないっ。

で、問題は、がんの場合は痛みのコントロールですね。
先生は経験から、がんの最後に痛みが出ない患者は多く、痛みが出ても鎮痛剤で
和らげることができると言う。
おお、心強い言葉だ。

三十年前までは、モルヒネはなるべく使わない、というのが原則でした。
余命いくばくもないという段階で初めてモルヒネ投与開始。しかしギリギリまで
我慢してきた患者には、もう簡単にはモルヒネも効かない状態になっている。そ
れで注入量がどんどん増えて、意識が薄れるまで使うことになる。
──という時代が長く続き、多くの患者ばかりか医療関係者にまで、「がんの最
後には七転八倒の痛み」「モルヒネは最後の最後、使うと意識混濁の怖いクスリ」
というイメージが染みついてしまった。


けれど痛みを取るためのクスリは進歩している。
二十四時間効き目が持続して一日一回服用すればいいモルヒネの徐放錠もあるし、
三日に一回貼り替えればいいフェンタニルという麻薬の貼り薬もあるという。

鎮痛剤の使いすぎを怖れて、痛みを我慢してばかりいるのって、却って体によく
ないって言いますもんね。むしろ痛くなる前に服用することで、痛みに対する恐
れや不安がなくなり、結果として鎮痛剤の使いすぎも防げるらしい。

この本で知ったモルヒネに関する知識。

> 「痛い」という感覚が生じたとき、身体は麻薬を受け取る準備をし、同時に、
> その副作用に困らないようにする別の物質を体中に出します。つまり、痛みに
> 使う麻薬には、人間の体自体に中毒にならないような仕掛けがあるのです。脳
> や内臓がだめになることもありません。(89頁)

そうだったのかー。
痛くなったら安心してモルヒネを使ってもらおう。


モルヒネは安全だ、という主張を見ると、この先生はモルヒネ乱用してるのかな?
と心配になるけれど、逆に先生の診療所ではモルヒネ使用量がだんだん減っていっ
ているのだそうな。
痛みの原因は、実は「不安」にあることが多く、医師や看護師との正しいコミュ
ニケーションが取れていれば、そして患者が自律できていれば、痛みをコントロ
ールすることが可能だ、という。

自立ではなく、自律。
これ、キーポイントです。


この本を読んで、私はがんへの恐怖がずいぶん和らぎましたよ。
実際には担当医によって治療の方針は変わるだろうし、緩和ケアにどれだけ期待
できるかも変わるだろうけど、思い込みから「もうすぐ痛くなるぞ痛くなるぞ」
と不安に苛まされながら闘病生活を送るよりは、楽になれそうな気がする。


と言いながら、なんとなく自分ががんにならないような気もするんですけどね(爆)。
むしろ恐れるべきは糖尿病とか〜認知症とか〜(>_<)。


がんの最後は痛くない』 大岩孝司