2011年1月16日日曜日

双雲からの言霊

■今日の武田双雲からの言霊

高いところには行けなくとも、

上向きにはなれる。


誰でも、どんな状況においても。

今日も一日味わいつくしましょう。

週刊 お奨め本 第429号『折れた竜骨』

週刊 お奨め本
2011年1月16日発行 第429号


『折れた竜骨』 米澤穂信
¥1,800+税 東京創元社(ミステリ・フロンティア) 2010/11/30発行
ISBN978-4-488-01765-1


米澤穂信のミステリです。
今まで現代日本を舞台にした作品ばかりだった米澤穂信が、十二世紀末のヨーロ
ッパを舞台にしているという、それだけで仰天。しかも、ページを開いてみれば、
そこは魔術や呪いが存在する世界。いったいどんな物語が始まるのか! わくわ
くして読みました。
そんなわくわくを裏切りません。


イングランドの王位争いがリチャード王の王位就任によって決着したのも束の間、
リチャード王は十字軍に遠征に出、イングランドに国王不在が続く不安定な時代。

ロンドンから海路三日はかかるソロン諸島。
小ソロン島とソロン島からなるこの地の、領主はローレント・エイルウィン。小
ソロンに居を構える。小ソロンとソロン島の間の海は浅瀬が多く、島でただひと
りの渡し守でなければ渡れない。その渡し守も日が落ちてからは舟を出さない。
夜の間は誰も入り込むことはできないはずの小ソロン。

ある日、騎士ファルク・フィッツジョンと、その従士ニコラ・バゴが領主を訪ね
てくる。
暗殺騎士が領主を狙っている。その暗殺騎士を我々は追っているのだと。
その晩、領主は小ソロンの館の一室で健で胸を突かれて殺される。…

領主の娘、アミーナは、ファルクとニコラとともに、犯人を追う。

この物語の世界には、魔術がある。呪いがある。

呪われたデーン人。切っても突いても血さえ流さず、食物も飲み物も不要、老い
ることはなく、爪も髪も伸びない。デーン人がソロンを狙っている。

暗殺騎士は、魔術によって人を操り人形《走狗(ミニオン)》にして、殺人を犯
させる。《走狗》は自分が魔術にかかったことに気づかず、人を殺した記憶もな
い。


もちろん、魔術がある世界だからといって、魔術のひと言ですべてが説明できて
しまうような非論理的なことはありえない。
なんといっても米澤穂信だし。
むしろ、こういう特別な設定の特殊世界だからこそ、ルールがはっきりして、論
理性が際立つともいえる。


> 「何も見落とさなければ真実は見出せる。理性と論理は魔術をも打ち破る。必
> ず。そう信じることだ」(100頁)


設定こそ魔術が跋扈する中世ヨーロッパだけれど、実は正統派本格推理。
実際、終盤には名探偵物のお約束、「名探偵 皆を集めてさてと言い」シーンも
あるし(笑)。

こういう特殊設定ミステリというと、私は条件反射で西澤保彦を思い出します。
『七回死んだ男』『人格転移の殺人』『瞬間移動死体』etc…
大好きなんですよ!
本書のあとがきでも、米澤自身、西澤保彦に触れています。ちょっと嬉しい。


ファンタジー風味の本格ロジック。
おいしいとこどり。


ところで、今週のメルマガは、どっちを紹介しようかとかなり迷ったのです。
この本と、木内一裕の『キッド』と。
『キッド』は、二十歳のあんちゃんがついつい首を突っ込んでしまった事件に
振り回されるジェットコースターノベル。すっごくテンポがよくて、面白くっ
て、軽快で、とにかく爽快! すかっとしたぁ! 
よろしかったらこちらも是非!


『折れた竜骨』 米澤穂信

第345冊 南條範夫「日本史の謎と真説」

  乱読! ドクショ突撃隊♪    第 345 冊
              
                       2011.1.15
              
          
          
【1】読書感想 (第345冊)
  
南條範夫  「日本史の謎と真説」  銀河出版

お正月のような長期休暇は、少し分厚い本を読む事にしている。
電車の中で単行本を片手にして読むのは手が疲れ、薄めの文庫本がありが
たい。
しかし長期休暇は家でゆっくり読め、特に長風呂の大好きな私は本や簡単
な料理を持ち込んで一時間以上風呂に浸かるのが楽しい。

大好きな南條範夫を半年以上御無沙汰にしていたのに気付き、単行本と新
書判の中間くらいのサイズの本書を手に取った。
南條氏が日本史の数々の謎を採り上げ、更に真説を披露する。
考えただけでもワクワクする構成の題名。
大和朝廷から明治維新まで全39章と、書名に偽りはなかったが、期待した
ほどの真説は無かった。

そう、真説。
新説では無いのだ。
日本史の数々の謎を提示した本は多い。
そして俗説や一般に流布された話をした後、実際はこうだったと説明が入
る。
しかしあくまでそれは「真実の」説=真説であり、「新しい」説=新説で
はないのだ。
歴史初心者や中級者には勉強になろうが、歴史本を何十年と愛読してきた
人にとっては、謎も知ってりゃ真説も大体聴いた事がある。
ときどき南條氏ならではの視点と考察が面白いが、大体はフンフンなるほ
どと読む内容が多かった。

そうは言っても敬愛する作家南條範夫。
彼がこれまで書いてきた得意分野では滅法筆が走ってるのが判った。
源鎮西八郎為朝、真田幸村、没落した武将のその後、西郷隆盛と伊藤博文。
上記については特に著者独自の知り抜いた情報が開陳され、内容も深かっ
た。
少しディープな人物として、光厳帝のその後を追った内容は初めて読んだ。
福山城の「淀殿の湯殿」事件も私にとっては初ネタで面白かった。
他にも宮本武蔵・二刀流の真相や、坂本竜馬暗殺犯の考察など、他の作家
とはちょっと違う内容も多々あった。
もっとも意気込んで展開した真説は、西郷隆盛についてだろう。
これはなかなかの真説だと思った。



南條範夫  「日本史の謎と真説」