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副題:子どもの脳とトラウマ
児童虐待と、それが子どもに及ぼす影響についての書。
舞台はアメリカ。
性的虐待を受けた少女。
母親が殺される現場を目撃し、自身も咽喉を切られ、そのまま半日も母親の死体
のそばに一人きりだった少女。
カルト教団で絶対的権力者の暴力の支配下にあった子どもたち。
ネグレクトのせいで高カロリーの栄養を摂りながらも成長できない少女。
ネグレクトから社会病質者となり、少女ふたりを殺してレイプした(この順番で)
少年。
トラウマから解離症状を起こし意識を失った少女。
ミュンヒハウゼン症候群の母親に傷つけられた少年。
…等々の事例とその対処と結果を紹介するなか、ひときわ目を引く章題が、
「第六章 犬として育てられた少年」
これが本書のタイトル。
ジャスティンは生後二ヶ月で母を亡くし、祖母に引き取られるが、一歳になる前に
祖母も死亡。祖母の恋人の男性は、幼児の世話の仕方を知らなかった。犬のブリー
ダーだった彼は、ジャスティンを犬と同じように扱った。犬の檻に入れ、食事は与
えたがスキンシップはなかった。
六歳で肺炎で入院したときには、言葉を話せず、歩くことができず、スプーンやフ
ォークを持てず、排泄物や食事をスタッフに投げつけた。
彼の脳は、アルツハイマー病が進行した状態にそっくりだった。…
悪意からではなく、無知からネグレクトが起きる。
子どもが健全に成長するためには、スキンシップが重要。
甘やかすのと、愛情を注ぐのとは別。
…でもこの区別はいかにも難しそうだな。
> 子どもが問題行動を始めたときに大人が真っ先に感じるのは、罰してやめさせよ
> うという衝動だが、これは悪い結果をもたらすことが多い。[…]子どもに優しい
> 行動をとってほしかったら、彼らを優しく扱うことだ。(360頁)
トラウマにさらされ傷ついた心も、たっぷりの愛情と正しい治療によって回復を期
待できる。
…間違った治療は悪化させる。
今でも広く信じられている有害な信念のひとつに、「トラウマから回復するために
は、記憶を掘り出して話し合わなければならない」という考え方がある。セラピー
にかかり、記憶に向き合う。ん〜、一見、前向きなようだけど。
「記憶捏造」事件もあるし。
この本で紹介されているのはアメリカの事例だけれど、日本でも同様の事件は起き
ている。そしてひとたび事が起きた後のフォロー体制が、日本はアメリカどころで
はなく遅れている。
国の将来を考えたとき、子どもを守る制度は絶対に必要なのに。
ていうか、国がどうこうっていうより、子どもって私たちの未来でしょう。
子どもを守れなくて、なにが守れるっていうのか。
> 火は人を暖めることも、人を焼きつくすこともできる。水は人の咽喉の渇きを癒
> すことも、人を溺れさせることもできる。風は人の肌をなでることも、人の身を
> 切ることもある。人間同士の関係も同じだ。(11頁)
現実は絶望に満ちているように見えるけれど、救いはある。
人を傷つけるのは人間だけれど、救いを与えるのも、人間なのだ。
解説の杉山登志郎が言及している日本の現状についても必読。
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『犬として育てられた少年』 ブルース・D.ペリー、マイア・サラヴィッツ