本日は ◆世間話、時事ネタ系
活字と自活 荻原 魚雷
¥ 1,680 本の雑誌社 (2010/7/13)
著者の荻原さんはフリーライター。1969年三重県に生まれる。
人付き合いは得意じゃない。もちろん営業も苦手。自信がなくて、
若い頃は稼ぐことより倹約にばかり、心を砕いていた。貯金はな
い。
エッセイ集。古本に関すること、仕事に関すること、つれづれに
つづっている。レイアウトが凝っている。二段組みだったり、真
ん中に寄せていたり、ページをめくるたび楽しめる。
この方、古本屋さんを歩くことがとても好きみたい。見つけた本
に寄せる文章が多く集められている。
アメリカのコラムニスト、アンディ・ルーニーの本を読む。「男
の枕草子」。この人のエッセイには、ゆるい安定感がある。大き
く間違えないという安心があるから好きだ。
こんな警句を残している。「一セント貯めるのは時間の無駄」
「もし適度にしっかり働けば、そこまでしっかり働いていない人
が大勢いることに気づくだろう」「紐をためこむな」「うまく行
かなかったら、熱いシャワーを浴びろ」
どうでもいいけど、納得させられることが多い。
あすなひろしの漫画には、昭和の男の顔を見る。彼は「漫画家が
ほれる漫画家」と言われていた。救いのない話を書くのがうまい。
妻子に逃げられた男。他人があてた万馬券を奪って逃げる。その
金で飲んでいるとき、女と知り合い、彼はささやく。「これだけ
あればダンプが買える。俺、まじめに働くよ」
だが女の後ろにはヤクザがいた。ぼこぼこにされて、あり金をと
られてしまう。「……ということか結局」
彼の漫画には大人の男が描かれていた。昭和の時代は、男は早く
大人になりたがった。今はどうだ? オヤジくさいは悪口の類で
ある。大人の男は主役をはれなくなった。……ということか結局。
フリーで生きるということは、つまるところ博打のようなものな
のである。
かつて先輩に「三十歳まで続けられたら、後はどうにかなるよ」
と言われた。三十をこえて、その言葉の重みがわかる。
文章書きなんて、吐いて捨てるほどいるのだ。特別な才能か、ユ
ニークなネタがないと、あっという間に若者に取って代わられて
しまう。若者は安く使えるからだ。
三十歳まで続けられたら。確かにそうだ。二十代であきらめて、
田舎に帰る人も大勢いる。そして三十歳を過ぎると、転進する道
も閉ざされたとわかるのである。
人付き合いがうまければ。スーツを着こなして、営業にまわるこ
とができれば。人生は違っていたかもしれない。
だができないのが自分であり、それとわかって読んでくれる人を
大切にしたいと思う。
レイアウトが多様なので、一冊の本をじーっと読み続けているよ
うな気持ちにはならない、なれない。エッセイでもあるし、好き
なところを好きなように、読んでいけばそれでいいと思う。
ちびりちびり、舐めるように読んでいく本。
何か得しよう、という類の本ではない。しかし楽しい。