百回の「愛してる」より、
一回の「心をこめた肩たたき」
今日も一日味わいつくしましょう。
今日の本は女性にオススメ。
特に更年期世代。
今、苦しんでいる人。乗り越えた人。近々来そうで脅えている人。
テーマは更年期。
だけじゃなくて、更年期を迎える年代が抱える、たとえば老親介護、たとえば夫
の定年、たとえば思い通りにいかない子育て、などなど。
自分の身体がコントロールできない、その歯がゆさ。
人生はもっとコントロールできない。
次から次と降りかかる難題。
苦しみながら、人生に立ち向かう、女たちを支えてくれるのは、「あなた」。
あなたがいればそこはパラダイス。
人生には、支えてくれる誰かが必要。誰かって「あなた」。
あなたっていうのは…沢田研二。
ジュリー!
独身図書館員・敦子、専業主婦・まどか、バツイチのライター・千里の三人の更
年期ライフと、それぞれのジュリーへの思い。
敦子は小学生以来の熱烈なファン。CDやDVDはコンプリート、ライブはもちろん
芝居の舞台も駆けつけ、ファンサイトにも熱心に書き込む。お給料からジュリー
予算を計上し、ジュリー中心に生活がまわる。
そんな敦子の鬼門は母だ。お嬢様育ちでいつまでもわがままな母に振り回される。
ある日、母に大切なジュリーのアルバムを失くされて、泣きながらファンサイト
に書き込むと、「亡妻の遺品を差し上げます」とメールが。
五十歳にして初めて感じる胸のときめき。
「おっとどっこい」
> 「アイドルの追っかけができればいいのにねえ。あれは一生やれます。あれが
> ある限り、元気でいられると私は思うわ」
> 敦子は本気で言った。(84頁)
ついにまどかにも更年期がやってきた。ホットフラッシュとめまい。苛立ち。息
苦しさ。そこに介護がのしかかる。
姑が骨折、父が脳梗塞、舅が心筋梗塞、母が初老期うつ病。
夫の両親は義兄夫婦が頑張ってくれていたが、ある日兄嫁が家出した。韓流の追
っかけを、兄に非難されたからだという。
高校生の頃、まどかは徹夜でチケットを取ってジュリーのコンサートに行った。
結婚してすっかり遠ざかっていた、あの頃の情熱を思い出した。
「誰かに夢中になるって、最高ですよね」
「ついに、その日が」
> 更年期は、親の老いやうっとうしさが増すばかりの配偶者や生意気になった子
> 供との確執に立ち向かう年回りでもある。そこから来る山のような用事と苛立
> ちと不安が、更年期の体調不良に加わるのだ。
> みんな、よく生きてられるわよ。女って、えらいと思わない?(106頁)
千里は離婚してから体調を崩した。
医者に調べてもらうと特に異常はないという。精神的なことが原因かと口にした
千里に対し、医者は更年期だと。ありえない! まだ四十三歳なのに!
納得できないまま、知人に紹介されて、「ヘイヘイ・メノポーズの会」に参加す
ることになった。メノポーズとは更年期のこと。
その会のテーマソングがジュリーの『MENOPAUSE』。会員に熱心なファンがいる
のだ。特にジュリーに対して思い入れのなかった千里だが、更年期の症状に向き
合い、自分の人生を見つめなおすにつれ、だんだんジュリーの歌に魅かれていく。
「こんなはずでは」
> 「私が出会った更年期で悲観する女性の大半が、情けない自分、哀れな自分に夢
> 中になってる。すごく視野が狭くなってね。自分しか見えないの。それも、ホル
> モンのせいで歪んだ心の鏡に映る、実際以上に可愛そうな、王子様のいないシン
> デレラの姿」
> ムッとした。自己憐憫に溺れているというのか。心外な。(213頁)
三人三様のジュリーへのスタンス。
それぞれが更年期のさまざまな症状を抱え、家族の面倒を抱え、将来に悩み、ジュ
リーの歌に未来に立ち向かう力を得る。
この小説ではジュリーという具体名を挙げて、ジュリーに助けられる女性たちを描
いているけれど、実際のところ、何でもいいわけですよ。情熱を傾けることができ
るものを持っている、ってことが大事。
韓流の追っかけでもいいし、フラダンスを踊ることでも、OK。これらはこの小説中
の例ね。
ああ、最初に女性向けと書いたけれど、男性にも読んでほしいなあ。
配偶者や恋人が更年期真っ最中だという人、あるいはそろそろだという人。パート
ナーを大切にしてあげてください。女は大変なんですよ。
パートナーがもう乗り越えたという人も、あの頃はたいへんだったんだなあ、と思
いを馳せてあげてください。お母さんや会社の上司や先輩や年上の友人が更年期だ
という若い人にも読んでほしい。今んところ縁がないという人にも将来のために読
んどいてほしい。
つまり、みんな読めよ、と(爆)。
> 歳をとるのは、ほんとにつらい。
> でも、この歳まで生きてこなければ、会えなかった人がいる。立ち会えなかった
> 時代の局面がある。だから、若さなんか羨ましくない。
> 若返りを望むなんて、無駄なこと。このまま更年期を過ぎて、彼と一緒に老いる
> 自分でいい。(271頁)
『あなたがパラダイス』 平安寿子