本日は ◆世間話、時事ネタ系
柳生真吾の 雑木林はテーマパークだ! 柳生 真吾
¥ 1,680 日本経済新聞出版社 (2010/4/24)
見ているだけで、里山の中に迷い込んだような気分。写真多数。
雑木林の魅力をたっぷり伝えてくれるエッセイ。
タマゴダケというきのこがある。六月ごろに、卵のような真っ白
な殻をまとって誕生する。写真があるが、木の根っこに本当に、
ぽつんと卵が落ちているみたいだった。
やがて白い殻が割れ、中から赤いきのこが生える。出てきたとき
は、真っ赤なピンポン玉に柄がついたような感じ。メルヘンチッ
クでとてもかわいらしい。
かさが開くと食べごろなのだが、このとき、猛毒のベニテングダ
ケと間違えないように。タマゴダケには大きくなっても、根元に
白い殻が残ります。食べると絶品。
美しいカタクリの花の写真もある。
カタクリは、雪解けの林に顔を出すのだそうだ。カタクリの花の
開花は春の到来を告げるものである。
だがそれは、カタクリなりの必死の生存戦略なのだ。寒いさなか
に命がけで目を覚まし、冬眠から覚めたばかりの昆虫を待つ。植
物は動くことができないから、さまざまな手段で虫の助けを誘う
しかないのだ。
カタクリの花は、昆虫の目から見るとネオンサインのように輝い
て見えるのだそうだ。紫外線を浴びると光る仕組みになっている
らしい。
そうして虫たちを誘い、受粉し、できた種をアリに運んでもらう。
しかしその種が発芽し、成長して花を咲かせるまで、実に八年の
月日が必要となる。
著者の柳生さんは、八ヶ岳にこの雑木林を所有しておられるのだ
が、もともとこの土地を購入したのは彼の父親の博さんだった。
最初は荒れた土地だった。長い年月をかけて、親子で力を合わせ
て、生き物も人も住みよい土地に作り変えてきた。
私はよく知らなかったのだが、森や林というのは、人の手が入っ
たほうがうまく機能するものなんだそうだ。
人の手が入っていない林を原生林と呼ぶ。屋久島や白神山地など、
日本にも原生林はいくつかあるが、大半は人によって整備された
人工林、二次林である。
そのような林は、定期的に管理、更新させていく必要がある。人
は自然を破壊するといわれるが、さにあらず。自然に働きかける
ことで、生態系を豊かに保つことができる。
江戸時代には、このような「森林ビジネス」が盛んだったようだ。
武蔵野の雑木林は、増加する江戸の人間を養うために、薪炭林と
して作られた。薪を取るために、人工的に作られたものだった。
日本には、人の手で里山を守ってきた長い伝統がある。これに学
ぶべきことが、現代の我々にもたくさんある。
早速出かけてゆきたくなるような本だった。同時に、植物の強さ
に改めて感動させられる。
タンポポやすみれ、シロツメクサ、普段目にする植物たちの、し
たたかな生き残り戦略には、実に興味をそそられた。
写真もエッセイもとても素敵。週末に、ぜひおすすめの一冊。