週刊 お奨め本
2010年11月28日発行 第422号
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『脳天気にもホドがある』 大矢博子
¥1,300+税 東洋経済新報社 2010/11/4発行
ISBN978-4-492-04399-8
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今週のオススメはリハビリ日記です。
愛と涙の闘病記…にはなってないなー。
副題が「燃えドラ夫婦のリハビリ日記」。ドラゴンズファンならよりいっそう楽し
めること請け合いでございます。鉄ちゃんなら更に。
なにしろ「リハビリより鉄道、介護よりドラゴンズ」という夫婦です。
ある日突然、脳卒中で夫が倒れた。「右半身の感覚がない」と言いながら、動けな
くなった。救急車で運ばれる動けなくなっている夫、妻に向かって「読みかけの鉄
道本、持っていって」。
筋金入りの鉄ちゃんでしょう!?
鉄ちゃんなのは夫だけだけど、ドラゴンズファンは夫婦共通。
倒れてから一週間。自分の名前を答えることはできるが、妻の名前や今日の日付な
どは答えられない失語症の症状が起きている。そんなとき、「立浪引退、来期かぎ
り」の新聞記事。
妻、スポーツ新聞を買って病室に駆け込み、夫に見せる。
夫、新聞を見て驚愕。食い入るように一面を見つめる。認識力爆発! さらにカレ
ンダーとテレビを指差して、「ドラゴンズHOTスタジオ」を見よう、と意思表示。
曜日の感覚も戻った。
すごい、ドラゴンズ愛でいきなりコミュニケーション成立である。
※ ドラゴンズHOTスタジオ:東海テレビで土曜午前に放送されていた情報番組。
東海地方ではそういう番組があったのさ。今秋終了。
脳出血の後遺症の一つに、「把持力の低下」というものがある。聞いたことを覚えて
おけない。そのリハビリに、9枚の絵カードの中から「新聞、りんご、鉄道、玄関」
というように先生が4種類を言う。患者は4つの言葉を覚えておいてカードを選ぶ。
とーこーろーがー。
先生が「電車」と言ったとき。
> 「これ、電化されてない」(101頁)
鉄ちゃん魂…。
その後、カードから「電車」は消えたそうです(爆)。
というように、ドラゴンズ愛、鉄ちゃん魂、パソコンマニア、自転車、等々、多趣
味な夫はいろんなこだわりを持ってます。
そのこだわりがそりゃもういろんなところで発揮されます。
好きなものがいっぱいあるから、広い範囲に知識があって、失語症にもおみごとな
「迂言」で対応します。
こういうの読んでると、好きなものが多いこと、興味の対象が広いこと、いろんな
物事をおもしろがれること、っていうのが大事なんだなーって思います。
ところで、介護や福祉関連グッズにはオシャレじゃないものが多い。
「いかにも福祉」「いかにも介護」で、名に鮮やかな青や赤、ピンクに水色。
モノトーンやアイボリーがほとんどない。
片麻痺で着替えが簡便な衣服を選ぶと、基本ジャージやスウェット。デニム風イー
ジーパンツを探したら股下が短くてつんつるてん。
…年輩者向けには、はっきり見分けがつく鮮やかなカラーが望ましい。衣類もラク
なものは年配者向けで、デザイン性は後回し。
でも、若くして事故などで障碍を持つ人だっているんだし、この本で描かれている
夫だってまだ45歳だ。脳血管障碍は若年化している。
つーか、お年寄りだって今どきはオシャレな人、多いと思うんだけど!
きっと諦めちゃうんだよね。それどころじゃないんだしって。
でも、この夫は諦めない(笑)。
車椅子もケアマネージャーさんがいろいろ「こんなものがありますよ」と紹介して
くれるのだが、「形が嫌」「色が嫌」「デザインが嫌」「なんか嫌」けちょんけちょん。
最終的には自転車メーカーが出してるスポーツタイプの車椅子を見た目優先で機能
度外視で選択。いいのかそれで。いいよねそれで。使う人がそれで気分がよければさ。
妻である著者、大矢博子は、書評家・コラムニスト。
発行人は『本の雑誌』という書評誌で常々拝見してまして、もともと好きだったん
ですよ。ワタシがコージー・ミステリという分野に目覚めたのも大矢博子の紹介か
らだ! というわけなんで、本屋さんでこの本を見て思わず手に取ってしまったの
ですが、名古屋以外でちゃんと売れてるかしら。と、ちょっと心配。
すごくおもしろいから、ぜひ皆さんに読んでほしいなあ。
この本読んで、いったい何回声出して笑ったことか!
すっごくおもしろいです。ほんとうに!